Skip to Content

October 2022

アートを通してサムライ精神を探求するアメリカ人アーティスト

  • 長野県軽井沢町・熊野皇大神社の新社殿の天井画の下に立つヒューエットさん
  • 新しい絵画シリーズ「LIFE」の作品「Immortal」の前にいるデビット・スタンリー・ヒューエットさん
  • 武士道シリーズの一つ「Bushido 205」
  • 2017年、アメリカ大統領夫人への贈呈品として選出された武士道シリーズの作品の一つ「Majime」
  • 「ヒューエット・ラスター」による壺
長野県軽井沢町・熊野皇大神社の新社殿の天井画の下に立つヒューエットさん

アメリカ人のヒューエットさんは、日本の歴史と文化をテーマとした、金箔を多用したアート作品を数多く制作し、それらは国内外で高い評価を受けている。

新しい絵画シリーズ「LIFE」の作品「Immortal」の前にいるデビット・スタンリー・ヒューエットさん

デビット・スタンリー・ヒューエットさんは、長野県軽井沢町を拠点に活動するアメリカ人アーティストである。ヒューエットさんのアートは、日本の文化と歴史に触発されている。特に、絵画作品「武士道シリーズ」、そして最近発表された新シリーズ「LIFE(生命)」で、国際的に有名となった。「武士道シリーズ」は、日本の歴史的な出来事とサムライ(侍)精神に触発、着想を得たアートだ。

2017年、ヒューエットさんの「武士道シリーズ」からの作品「Majime/真面目」が、当時の日本の内閣総理大臣夫人から米国大統領夫人への贈呈品として選ばれ、米国国立公文書館に現在収蔵されている。ヒューエットさんの作品は高く評価され、2021 年には別の作品が在日米国大使館のアートコレクションとして収蔵された。

ヒューエットさんは、「シリーズで使用されている赤は情熱、黒は規律、金は武士の優雅さを表現しています。日本の、特に江戸期(17世紀初頭から19世紀中・後期)の武士は、剣術鍛錬のみならず、茶道や書道といった豊かな文化的教養も持ち合わせていた稀有な存在でした」と説明する。

武士道シリーズの一つ「Bushido 205」

「優雅さ」を表現するための金箔は石川県金沢産。 それらを1枚ずつ手作業で貼り付け、時間の経過を表現するための「ひび割れ」を作り出す。制作の工程は、黒の絵の具を叩(たた)きつける行為で最高潮に達する。これは戦闘で示される武士の本分の瞬間を表現している。

「作品を描き始める前には、座って瞑想し、心を集中させます」と述べるヒューエットさん。各作品は歴史上の出来事、また当時の日本の武士たちの精神的な体験をヒューエットさんが解釈したものである。

アーティストである母親のスタジオで若い頃から様々な芸術的伝統に触れたヒューエットさんは、子供の頃、多くの時間を彼女のアートスタジオで一緒に過ごした。

2017年、アメリカ大統領夫人への贈呈品として選出された武士道シリーズの作品の一つ「Majime」

ヒューエットさんは、マサチューセッツ大学で日本史を専攻するとともに陶芸講師を務め、また、北海道大学では交換留学生として過ごした。マサチューセッツ大学を卒業後の1990年に再来日し、日本人陶芸家に師事した。アメリカで海兵隊員として4年間の兵役に就いた後、日本に居を移し、本格的にアーティスト活動を開始した。

日本へ戻ってきた後、ヒューエットさんは、数々の展覧会に足を運び、日本古来の屏風を鑑賞した。12世紀の屏風をいくつか見て、その長い時に耐えるしなやかさ、強さに魅了され、金箔と伝統的な屏風制作技術の研究を始めた。これが後の「武士道シリーズ」に繋がった。「絵の具は色あせていましたが、屏風に残っていた金箔とわずかな顔料が美しい抽象画を作り出していました」とヒューエットさんは言う。また、ヒューエットさんは独特の金色の釉薬を使って陶器を作っている。この釉薬は「ヒューエット・ラスター」と名付けられ、それを用いて制作された陶器は広く展示されている。

「ヒューエット・ラスター」による壺

2021年、ヒューエットさんは長野県軽井沢町にある熊野皇大神社(くまのこうたいじんじゃ)の天井画の制作を依頼された。ヒューエットさんにとって、今まで依頼された中で、最も重要な仕事のうちの一つだった。2,400枚の本金箔を使用した24平方メートルを超えるこの巨大な作品は、何千人もの参拝客に、昨年も今年も、鑑賞されている。

2022年、ヒューエットさんは新しい絵画シリーズ「LIFE」を発表した。日本の伝統的なテーマの解釈と、その現代に生きる影響を組み合わせた構成になっている。明るい色とゴールドの円はシリーズ全体の象徴となっている。ヒューエットさんは、「2020 年に始まった世界的なパンデミックは困難な状況でしたが、私は、地球上の生命の持つエネルギーと回復力に焦点を当てた楽天的な世界観を創りたかった」と述べる。

ヒューエット作品のファンは、このユニークなアーティストの今後の活躍に目が離せない。