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October 2022

廃棄物から金や銀を回収するごみ焼却施設

  • 神奈川県相模原市の南清掃工場
  • 流動床式ガス化溶融炉から回収された金に相当する量の金の延べ棒(レプリカ)
神奈川県相模原市の南清掃工場

ごみから金や銀を回収することができるごみ焼却施設の開発に日本の企業が成功した。この技術を用いて白金(プラチナ)、パラジウム*、銅といった他の種類の貴金属を回収するための技術開発が続けられている。

流動床式ガス化溶融炉から回収された金に相当する量の金の延べ棒(レプリカ)

今年(2022年)6月、神奈川県相模原市の南清掃工場のごみ焼却炉から合計約30キログラムの金や銀が回収された。同市がそれらの回収された貴金属を売却し、約3700万円の利益を得たというニュースが伝えられた。

「当社が設計・建設した流動床(りゅうどうしょう)式ガス化溶融炉というごみ焼却施設から金や銀の回収に成功しました」と語るのは、株式会社神鋼環境ソリューションの環境プラント事業部で設備改善推進室室長を務める技術士 ・藤田淳だ。「一部の電気及び電子製品は家庭ごみと一緒に捨てられてしまうので、その電子基盤などに使われる貴金属が焼却炉から排出される残留物に含まれているということは知っていましたが、これまでは資源として回収する方法がありませんでした」と言う。

流動床式ガス化溶融炉は、ごみの熱処理時のダイオキシンなど有害物質の発生を防止し、さらに最終処分にかかる環境上の負荷を低減するために、もともと開発された焼却炉である。500~550度の高温で循環する砂によってごみをガス化させる流動床炉と、その流動床炉から排出される灰を高温で溶かして再利用する溶融スラグができる溶融炉からなり(図2を参照)、炉内の砂からごみに含まれている鉄やアルミについては回収することができた。溶融炉内の燃焼温度は1250度の高温に達するためダイオキシンが発生しにくいほか、灰が高温で溶融し溶融スラグとなり、道路建設の材料として使われる。灰の溶融のために必要な熱は全てごみのガス化で発生するので、化石燃料を必要としない。

「2018年に貴金属の回収技術の開発をスタートした頃、金や銀がごみ焼却施設のどこに存在するのかまったく見当がつきませんでした。炉から最終的に排出される灰や不燃物には、金や銀はほとんど含まれていないため、ガス化装置のどこかに残っていることは確実でした。2年間調査した後、流動床炉の底にたまっている砂に金や銀が濃縮されて残留していることを発見したのです」と藤田さんは言う。

一般的に、金鉱山から採掘される金鉱石の金の含有量は鉱石1トンあたり約3~5グラムと言われる。一方、焼却炉の底の砂には1トンあたり6キログラム(6000グラム)を越える金が含まれていたという。

南清掃工場では3~4か月に一度、操業を停止して保守作業を行う。その際、炉の底にたまった砂を取り出して精錬工場に持ち込んだ結果、2021年度には合計として約15キログラムもの金と約15キログラムの銀を、南清掃工場は回収することができた。

この回収に関するニュースの反響は相当大きく、全国の地方自治体やリサイクル業者などから問合せが相次いだという。

現在、国内17か所にある同社の流動床式ガス化溶融炉のうち、すでに5か所で金や銀の回収事業が始まっている。

この貴金属の回収技術は、金鉱石から金を精錬するのに比べるとCO2排出量は10分の1以下に抑えられ、環境にもやさしい。技術開発が期待通り進めば、金や銀だけでなく、白金(プラチナ)、パラジウム、銅などをごみ焼却施設が回収できるようになる日も近いかもしれない。こうした資源を輸入に頼る日本にとって、ごみの焼却炉から貴金属を回収する技術は有用なだけでなく、日本が構築しようと努力している「循環型社会***」の実現にも貢献していくに違いない。

約1ミリメートルの砂の粒子内部の直径約20μm(マイクロメートル)の金の粒子(赤い部分)
図1:流動床式ガス化溶融炉のプロセスフロー図
図2:流動床式ガス化溶融炉の仕組み

* 白金に似た銀白のレアメタル。
** 国(文部科学省所管)による、技術者の認定資格。技術士法に基づいて行われる国家試験に合格し、登録した人だけに与えられる名称独占資格。
*** 物の効率的な利用やリサイクルを進めることにより、資源の消費が抑制され、環境への負荷が少ない社会