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August 2022

タケを原料とする紙作り

  • 竹チップにするため集荷されたタケ
  • 竹紙作りの原料となる竹チップ
  • 竹紙のロール
  • 竹紙100ノート
  • 竹紙のオリガミで作った里山の生きものたちと竹紙の「メモタワー」
竹チップにするため集荷されたタケ

タケを原料にした紙が、日本の竹林の適切な管理の観点から、効果的なタケの使い方として注目を集めている。日本のある企業は、とりわけこの竹紙の製造に熱心に取り組んでいる。

竹紙作りの原料となる竹チップ

近年、日本の農山村では放置竹林が問題となっている。タケは成長が速く、毎年3メートルほど地下茎を伸ばし、そこから新たなタケが芽を出し、これらはわずか2~3か月で高さ10メートル以上に育つ。そのため、竹林は管理されていないと、周囲の雑木林などに広がり、他の植物から陽光を奪って枯らしてしまう。この状況が進むと、里山*の美しい風景や生物多様性が失われてしまうおそれすらある。

こうした問題に独自の技術で取り組んでいるのが中越パルプ工業株式会社だ。同社は1947年に富山県高岡市で創業し、今では日本で唯一、タケを紙の原料にする技術を持つ総合紙パルプメーカーだ。

「ざるやかご、竹垣や土壁の骨組みの材料として、日本では昔からタケを大量に消費してきました。しかし、プラスチック製品の普及や生活様式の変化で、今やほとんど使われなくなってしまったのです」と同社営業企画部長を務める西村修さんは言い、「日本のタケを資源として持続的に利用していくことは、社会全体の課題だと私は考えています」と続ける。

中越パルプ工業がタケを原料とする紙作りに取り組み始めたのは、1996年のこと。同社の製紙工場の一つ、川内(せんだい)工場がある鹿児島県は、竹林面積が日本で最も広く、国内有数のタケノコ**産地でもある。地域の農家では良質なタケノコを収穫するため、年数を経たタケを定期的に伐採するのだが、問題はその処理方法だった。タケは枯れても腐りにくいため土に還りにくく、焼却処分は手間がかかり、自然環境に負荷がかかる。そのような状況で、あるタケノコ農家が紙の原料として伐採したタケを引き取ってもらえないかと工場の原料材集荷担当者に相談を持ちかけてきたのだった。

中越パルプ工業は、農家に伐採したタケをチップ工場まで運んでもらい、それを重量に応じて買い取ることにしたのだ。

「当初、竹パルプの配合率は10パーセントでしたが、その後、2009年には国産竹パルプ100パーセントの『竹紙』を製造販売し、年間最大2万トンのタケを集荷する体制を整えました」と西村さんは言う。

竹紙のロール

その努力において、チップ工場では切削する機械の刃を竹に使えるように全面的に見直すなど数々の試行錯誤を重ね、製紙原料に適した竹チップを作り出すことに成功したのだった。

竹紙は、しなやかで優しい風合いを持ち、それで製造したノートや付箋、レターセットやカレンダーといったオリジナル商品は非常に高い人気を得ている。また、放置竹林の問題解決へつながるといった社会的課題の解決に貢献する製品作りとして、竹紙は『エコプロダクツ大賞』を含めた数々の賞にも輝いた。

竹紙100ノート
竹紙のオリガミで作った里山の生きものたちと竹紙の「メモタワー」

放置竹林が全国に広がる中、竹紙作りの技術は、タケを有効利用しながら日本の里山を守ることにもつながることから、今、大きな期待を集めている。

* 「原生的な自然と都市との中間に位置し、集落とそれを取り巻く二次林、それらと混在する農地、ため池、草原などで構成される地域」(環境省)。
** タケノコは食べることができる。こちらを参照(たけのこ料理)。