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July 2022

明かりがつくる雅びな「キモノフォレスト」

  • 夜、明かりが灯る嵐山駅のキモノフォレスト
  • “嵐電”という名で知られる京福電気鉄道嵐山本線の嵐山駅に到着する電車
  • 駅の近くに天龍寺があることに因んで名付けられた「龍の愛宕池」
  • 昼のキモノフォレスト
  • キモノフォレストで夜、写真を撮る人々
  • 色とりどりの生地が浮かび上がるポール
夜、明かりが灯る嵐山駅のキモノフォレスト

京福電気鉄道嵐山本線、通称「嵐電(らんでん)」の「嵐山駅」には、京都の伝統的な着物の染色技法「京友禅」を用いた色とりどりの布地を入れたポールが立ち並ぶ「キモノフォレスト」と呼ばれる空間がある。毎夜、LEDが京友禅の絵柄を暗闇に浮かび上がらせ、古都ならではの雅びな明かりの「林」を楽しめる。

“嵐電”という名で知られる京福電気鉄道嵐山本線の嵐山駅に到着する電車

京都で最も風光明媚な場所の一つ、嵐山。渡月橋*と四季おりおりの嵐山とがなす景色は、国内外を問わず多くの人々を引き付けてやまない。その嵐山の玄関口に当たるの嵐電の「嵐山駅には、ホームや線路脇沿いに、高さ約2メートル、京友禅の布地を包みこんだ600本のアクリルポールを林に見立てた「キモノフォレスト」と呼ばれるスポットがある。

京都の着物として名高い西陣織が織りものであるのに対して、京友禅は、絹の生地に筆で直接色付けをしていく染色技法だ。17世紀後半、扇絵師として京都で活躍していた宮崎友禅斎が、自身で描いた絵柄を着物に染めたことに始まると言われている。多くの色を用い、花鳥風月が雅やかにデザインされ、華やかさが印象的だ。

駅の近くに天龍寺があることに因んで名付けられた「龍の愛宕池」

そんな京友禅を、デザイナー森田恭通(もりた やすみち)さんが駅空間としてデザインしたのが「キモノフォレスト」だ。昼間の着物の袖が林立するかのような印象から、毎日夕刻、ポールにLED光が灯ると、駅の光景は一変する。京友禅の雅びな絵柄そのものが夕闇に柔らかに浮かび上がり、華やかさが一段と増した、あでやかな空間が出現する。訪れた人々はここでしか見ることのできない、京都ならではの明かりが演出する一時を堪能できる。

昼のキモノフォレスト

このキモノフォレストは、京福電気鉄道株式会社が、森田恭通さんとタイアップし、2002年と2013年の二度にわたる嵐山駅のリニューアルを行った結果、誕生したスポットだ。

「嵐山駅のリニューアル前、嵐山は、夜に人々を引き付ける場所があまりありませんでした。そこで、夜の嵐山観光の起爆剤になるような駅にしたいと考え、嵐山駅の光の演出計画が始まりました」と同社で嵐山駅リニューアルを担当した鈴木浩幸(すずき ひろゆき)さんは言う。

キモノフォレストで夜、写真を撮る人々

第一期、2002年のリニューアル工事では青竹や木材を使い駅舎を改装し、建物全体をライトアップし、駅を訪れた人が和の要素を感じるように仕上げた。それから11年後、2013年の第二期のリニューアル工事では、駅構内のスペースに小道や公園、「龍の愛宕池」を設置し、利用者に開放的な空間づくりを行った。このリニューアルで、課題だった嵐山駅の夜の演出にと考え出されたのが、キモノフォレストだった。

色とりどりの生地が浮かび上がるポール

「夕方、電車が嵐山駅に到着しようとする時、だんだんと光のポールが近づいてきてテーマパークのアトラクションのような楽しさがある」という乗客の声にも触れ、「キモノフォレストのポール光を背景に写真を撮影する楽しそうな人々の声を聞いたり、わざわざ、着物姿で訪れる若い人たちの姿を見ると、キモノフォレストが、新しい魅力ある嵐山のスポットとして定着しつつあると思います」と鈴木さんは言う。

伝統的な京友禅の絵柄が、LED照明によって、現代的な明かりのスポットとなったキモノフォレスト。コロナが終息したら、昼の嵐山の景色とともに、夜、その明かりがつくる雅びな輝きを、ぜひ、国内外の多くの人々に楽しんでもらいたいと、鈴木さんは願っている。

* 渡月橋は、嵯峨野から嵐山にかけて流れる桂川に架かる橋で、全長155メートル。なお、桂川はこの橋を境に上流を大堰川(おおいがわ)と呼ぶ。