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June 2022

飛騨牛:岐阜から世界に

  • 霜降りで有名な飛騨牛
  • 豊かな自然で自由に育てられている飛騨牛
  • 「飛騨牛の父」安福号(やすふくごう)
  • 飛騨地方の郷土料理「牛の朴葉味噌焼き」
霜降りで有名な飛騨牛

本州の内陸に位置する岐阜県の「飛騨牛(ひだぎゅう)」は国際的な食品衛生基準にそって食肉処理され、海外への輸出も進められている。

豊かな自然で自由に育てられている飛騨牛

約150年前からの日本の近代化以降、黒毛和種の牛は徐々に品種改良が進められ、それらは現在、日本の牛という意味を持つ「和牛」として知られるようになった。

現在、和牛の約9割を占めているのが、黒毛和種とその交配種で、その肉質の品質の高さは国内だけでなく海外でも高い人気となっている。また、和牛は、産地や飼育法などの違いにより呼び名の異なる銘柄牛が200種類以上もある。その中でも、神戸ビーフや松阪牛(まつさかうし/まつさかぎゅう)などとともに最高級ブランドとして常に高い評価を得てきたのが飛騨牛だ。

「岐阜県の北側、飛騨地方の農家が肉牛を飼い始めたのは今から90年ほど前のことです。その後、1970年代半ばには地域全体で品種改良を行うようになり、飛騨牛の美味しさは日本中に知られるようになっていきます」と、飛騨牛の処理・加工・販売を手がける飛騨ミート農業協同組合連合会(JA飛騨ミート)の代表理事専務、小林光士(こばやし みつし)さんは話す。

その頃、大きな役割を果たしたのが安福号(やすふくごう)という1頭の種雄牛である。『飛騨牛の父』とも呼ばれた安福号は4万頭もの子を世に送り出し、今でも日本各地の優れた肉質を持つ牛のルーツを遡ると、その大半は安福号に辿り着くとまで言われている。

「飛騨牛の父」安福号(やすふくごう)

本州の内陸に位置し、高山市、飛騨市、下呂市、白川村を含む飛騨地方は、夏と冬、日中と夜間の寒暖差が大きく、また、白川郷の雪景色(Highlighting Japan2022年1月号参照)に見られるように山間部は雪が多いため、清らかな水にも恵まれている。小林さんによると、この環境が牛にはとても良く、豊かな自然のなかでストレスなく成長することで肉質も良くなるという。こうしてできる飛騨牛の肉は、色鮮やかな赤身に「霜降り」と呼ばれる脂身が編み目のようにしっかりと入っている。しかも、霜降りの量が多いにもかかわらず味はしつこくなく、柔らかな肉が舌の上でとろけていくような絶妙な味わいを楽しむことができる。

「われわれが輸出を開始したのは2010年でした。当時も今も飛騨牛は人気が高く、出荷量頭数も限られているため、国内需要だけでも十分なのですが、あえて輸出に踏み切ったのには理由があります」と小林さんは言う。「現在はコロナ渦で落ち込んでいるものの、岐阜県内には世界遺産の白川郷を始め有名観光地が数多くあり、海外から多くの旅行者が訪ねてきます。そんな訪日客に帰国後も飛騨牛を味わっていただきたいし、また、その味に惹かれて再び飛騨地方を訪ねてほしいという思いがあったのです」

飛騨地方の郷土料理「牛の朴葉味噌焼き」

小林さんは「輸出開始にあたり、国内トップクラスの衛生管理能力を持つJA飛騨ミートの食肉工場では、国際的な食品衛生基準をいち早く導入しました」と付け加えた。

こうして食肉の衛生基準が特に厳しいアメリカやEUを始めとする14カ国の輸出施設認定を受け、その結果、2018年には輸出金額が5億円を上回ることになった。さらにJA飛騨ミートは2021年に生産者団体や輸出業者との共同事業体『飛騨ミート農業協同組合連合会コンソーシアム』を設立し、農家の人々に輸出対策について具体的に説明したり、関係者が一体となって輸出先の事業者やバイヤーに飛騨牛の魅力を伝える活動なども積極的に行っている。

新型コロナ感染症の影響前、例えば外国人観光客の間で飛騨牛のハンバーガーが人気となり高山市へ訪れるなど、飛騨地方には外国人観光客が急増していた。小林さんは、ポストコロナの時節には、以前にも増して飛騨地方へ世界各地から多くの人々が訪れ、地元で、飛騨牛のハンバーガーのほかにも、郷土料理の朴葉味噌焼きに合わせて日本酒の地酒を賞味するなど、この地域の魅力をもっと楽しんでもらいたいと願っている。