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February 2022

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駅を中心にした街づくり

  • 丸の内側から見た東京駅
  • 岸井隆幸・日本大学理工学部土木工学科特任教授
  • 兵庫県の宝塚大劇場の前を通過する阪急電鉄の列車
  • 再開発が進む渋谷駅周辺
  • 再整備前の長野駅
  • 再整備後の長野駅
岸井隆幸・日本大学理工学部土木工学科特任教授

今から150年前、日本で初めて鉄道が開通して以来、駅*は日本の近代化、とりわけ都市の発展に大きな役割を果たしてきた。日本大学理工学部土木工学科特任教授の岸井隆幸さんに日本の駅と都市開発との関係について話を伺った。

丸の内側から見た東京駅

日本では1872年に東京の新橋と神奈川県の横浜間を結ぶ鉄道(距離29キロメートル)が開通して以降、全国に鉄道が広がり、駅も増えていきます。その中で、駅は都市の発展にどのような役割は果たしてきたしたのでしょうか。

19世紀末に東京で鉄道路線が広がり始めた当初、線路は人口密集地を避け、用地確保が可能な街の縁辺部に敷設されました。そのため、駅も街はずれに設けられました。現在と比べると、当時の東京の人口密集地の範囲は非常に狭く、今や大都会の中にある品川駅、渋谷駅、新宿駅などの駅も、元々は住む人も建物も少ない場所にあったのです。

つまり、日本で鉄道の歴史が始まった頃は、駅が開業してから、その周囲に町が自然に形成されていくというパターンでした。ところが、これを大きく変えたのが、2025年に万博が開催される大阪(「政策お知らせ」参照)を拠点とする鉄道会社、阪急電鉄の創業者である小林一三(こばやし いちぞう。1873-1957)です。1911年、大阪府大阪市の中心街にある梅田駅と、郊外の兵庫県宝塚市の宝塚駅とを結ぶ鉄道、宝塚線が開通します。その沿線で小林は、住宅地の開発、温泉、劇場、遊園地などのアミューズメント施設や百貨店の営業など数々の事業を展開しました。鉄道会社自らが、鉄道と駅の整備と合わせて、不動産業や小売業などの事業を沿線で行うことによって利益を生み出し、会社経営を安定させるというビジネスモデルを小林はつくったのです。

兵庫県の宝塚大劇場の前を通過する阪急電鉄の列車

このビジネスモデルは、東京でも広がりました。1923年の関東大震災で都心部が大きな被害を受けると、様々な民間の鉄道会社が都心から郊外へと伸びる路線を整備するとともに、沿線の都市開発も進めました。

日本では、なぜ、鉄道の駅を中心とした都市開発が行われたのかを教えてください。

アメリカでは1920年代に自動車が広く社会に普及しますが、日本では1970年代まで鉄道やバスが人々の主要な移動手段でした。そのため、人の集まりやすい駅周辺を中心に都市開発が進んだのです。アメリカの建築家、ピーター・カルソープ氏が1990年代初頭に「TOD」 (Transit-Oriented Development、公共交通指向型開発)という概念を提唱しました。これは自動車に過度に依存することで引き起こされる環境問題やエネルギー問題を改善する一つの対策として、駅の周辺に住宅や商業施設を集約させるというものです。その後、TODは国際的に注目されるようになりましたが、日本では100年以上前からTODが実践されてきたと言えます。カルソープ氏もTODの好事例は日本にあると述べています。

近年、東京の主要な駅で進められている大規模再開発には、どのような特徴があるでしょうか。

複数の鉄道会社の路線が乗り入れる東京都心の主要駅では、各会社が自社の駅を中心として独自に開発を行っていました。そのため、駅と駅周辺地域は非常に複雑な構造となっていました。しかし、近年、東京駅、渋谷駅、新宿駅などで行われている再開発では、駅と駅周辺地域の価値を高めるために、複数の鉄道会社、自治体、住民などの関係者が協力して開発計画が進められています。これにより、鉄道施設、駅ビル、駅前広場、駐車場などの一体的設計、総合的な再開発が可能となったのです。

東京駅西側の丸の内はオフィス街としての機能が中心でした。しかし、2012年に、東京駅の駅舎を1914年の開業当時の姿に復原する工事が完了し、2017年には歩行者を大切にした大きな駅前広場と皇居外苑まで続く広々とした歩行者空間が完成しました。こうした再開発によって、丸の内は新たな魅力をもった街に変貌しています。また、渋谷駅や新宿駅でも、区画整理によって土地の権利を入れ替えて敷地の形状を整えるととともに、ホームの移設、駅ビルの建て替え、線路によって分断されていた区域をつなぐ通路や広場の整備など様々な工事が進んでおります。将来は、誰もが安全・快適に乗り換えや移動ができ、心地よい空間が広がっている街になるでしょう。

再開発が進む渋谷駅周辺

これらのプロジェクトは、単なるTODではなく、関係者が皆で地域づくりをマネジメントするという要素が加わっており、TODM (Transit-Oriented Development and Management)と呼ぶことができるでしょう。地域の価値を持続的に高めるためには、駅、駅前広場、周辺地域を一体的にデザインし、マネジメントしていくことが重要なのです。

大都市郊外や地方の駅は、どのように変化していくか教えてください。

これまで大都市郊外や地方の駅は、住民が自宅と職場・学校を行き来する時の、あるいは観光客が観光地を訪れる時の「通過点」でした。しかし、超高齢社会の到来、情報通信技術(ICT)の発達など社会の変化にともない、公共交通が集まる駅と駅周辺地域には「地域で営まれる様々な活動を支える多様な機能」が求められるようになっています。例えば、店舗などの商業施設にとどまらず、保育所、高齢者施設、リモートオフィス、コミュニティセンターなど様々な生活サービスを提供する施設、あるいは図書館、美術館、コンサートホールなど多様な人が集まり交流し、地域の文化や歴史を共有する場などです。

地域の文化や歴史を感じる地方駅の例の一つとしては、私が再整備計画に携わった長野県の長野駅が挙げられます。東京から新幹線で1時間半ほどの長野駅は、約1400年の歴史を誇る善光寺の玄関口です。善光寺には国宝に指定されている木造の大きな本堂があり、一年を通じて数多くの人が参拝に訪れます。今回の整備では駅と駅前広場がこの街のシンボルとなることを目指し、鉄道会社の担当者、専門家、市民など数多くの人が参加しました。そうして、2015年に完成した駅前広場には、善光寺の本堂のデザインを意識し、長野市内産の木材を使った大きな庇(ひさし)と12本の高い列柱で構成されるゲート空間が設けられています。また、駅ビル3階部分には、窓辺から大庇・列柱とともに駅前広場の風景が見える広場空間があります。地元の人にも、善光寺の参拝に訪れる人にも長野の自然・文化・歴史・生活が感じられる駅となっています。

再整備前の長野駅
再整備後の長野駅

日本の鉄道を活用した都市開発のノウハウは、海外、特に開発途上国おいてどのように貢献できるとお考えでしょうか。

開発途上国の都市では、鉄道網が整備される前に自動車が普及したことから、交通事故、交通渋滞、大気汚染などの問題が非常に深刻となっています。そのため、途上国のみならず、国連や世界銀行も、鉄道を重視して都市開発を進めた日本の取組に対して、非常に高い関心を寄せています。

こうした途上国のニーズに応えるため、日本は国際協力機構(JICA)が中心となり、途上国の大都市における、鉄道を活用した都市開発を支援しています。その一つの例がタイです。JICAは鉄道建設や都市開発に関わる制度作りなど様々な支援を行っています。例えば、2004年にタイの国会で成立した土地の区画整理に関する法律も、JICA専門家が法案作りを支援しました。鉄道の建設やそれに伴う都市開発を進めるためには土地の区画整理が不可欠であり、そのための手続きや規則を定めた法律が必要でした。JICA専門家は、日本の法律をそのまま移転するのではなく、タイの社会や文化に即した法律案の作成に尽力しました。法律の成立後、バンコクを中心に鉄道の駅と周辺地域を一体的に整備する動きが進んでいます。

世界が深刻な環境問題やエネルギー問題に直面する中、世界的に公共交通を活用した街づくりが進んでいます。日本が長年にわたり培ってきた鉄道整備と一体となった都市開発の手法は、世界において今後ますます重要になるでしょう。

* 国土地理協会によると、2022年1月現在、全国に9,171の駅がある。