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  • 太陽光の力で進む小型ソーラー電力セイル実証機「イカロス」のイラスト
    Photo: Courtesy of JAXA
  • ミウラ折りを用いた平面の構造物が搭載された人工衛星「スペースフライヤーユニット」(SFU)
    Photo: Courtesy of JAXA
  • ミウラ折りで折られた地図
    Photo: Courtesy of Inoue General Print Co.,Ltd.

December 2021

宇宙開発に応用される折り紙の技術

太陽光の力で進む小型ソーラー電力セイル実証機「イカロス」のイラスト
Photo: Courtesy of JAXA

日本では折り紙の技術が宇宙開発に応用されており、惑星間の航行等への貢献が期待されている。

ミウラ折りを用いた平面の構造物が搭載された人工衛星「スペースフライヤーユニット」(SFU)
Photo: Courtesy of JAXA

日本で遊戯として発展、普及してきた折り紙は近年、様々な分野に応用されている。その代表例の一つが、三浦公亮(みうら こうりょう)博士(現:東京大学名誉教授/日本折紙学会会長)が1970年に考案した「ミウラ折り」だ。ミウラ折りは、大きな紙であっても、その対角線部分を押し引きするだけで、即座に展開、そして収納ができる折り方である。この特長を活かし、日本では携帯用の地図、観光ガイド、電車の路線図などの製品に利用されている。

ミウラ折りで折られた地図
Photo: Courtesy of Inoue General Print Co.,Ltd.

ミウラ折りは、宇宙空間において展開が可能な構造の研究の中から考案された。1995年に打ち上げられた宇宙実験・観測用の衛星「Space Flyer Unit」(SFU)には、平面の収納展開方法としてミウラ折りが搭載された。ミウラ折りによって、衛星の限られたスペースに太陽光パネルをコンパクトに収納できるだけではなく、それを容易に展開させることが可能とされたからである。実際、宇宙空間においてSFUの太陽光パネルの展開収納実験が実施され、成功している。

近年、日本の研究者はこうした折り紙の技術を宇宙開発にさらに活かそうと試みている。その一つが、燃料を使わず太陽光を受けて進む「宇宙ヨット」である。地球上のヨットは帆(セイル)を広げて風を受けて進むが、宇宙ヨットは、ソーラーセイルと呼ばれる大きな正方形状の薄い膜で、太陽から発せられる光子*の圧力(太陽光圧)を受けて進んでいく。エンジンも燃料も要らない夢の宇宙船として、惑星間の航行等への活用が期待されている。この宇宙ヨットの実現に向けた世界初の「ソーラー電力セイル実証機」として2010年5月、宇宙航空研究開発機構(JAXA)は「イカロス」を打ち上げたが、そのソーラーセイルの収納と展開に折り紙の技術が活かされている。

イカロスのセイルは正方形で、一辺が約14メートル。膜の厚さは非常に薄く、7.5ミクロンと人間の髪の毛(およそ100ミクロン)の十三分の一ほどである。イカロスはセイルの太陽光圧を使って推進し、セイルの一部に貼り付けられている薄い膜の太陽電池から発電も行っている。大きく薄いソーラーセイルは、打ち上げ時には、折り畳んで円柱形の本体には巻き付けて収納されている。そして、宇宙空間において衛星本体を回転させ、それによって生まれる遠心力を用いてセイルを広げる。これはJAXAが独自に開発した技術だ。なお、本体はセイルを広げた状態を維持するためにその後も回転し続ける。

「イカロスのミッションのうちで一番難しかったのは、最初のセイルの展開でした。一辺14メートルの大きなソーラーセイルがきれいに開くことに成功し、漆黒の宇宙で太陽光を反射してキラキラと輝いている様子を目にしたときは心から感激しました」とイカロスのプロジェクトリーダーを務めたJAXAの宇宙科学研究所助教の森治(もり おさむ)さんは話す。

イカロスのセイルを開発する中で、プロジェクトメンバーは、自分の手で紙を折り、様々な畳み方を検討した。それは、子供のころから折り紙に触れる環境がある日本人ならではの自然な着想だったという。メンバーは頭の中でイメージするのではなく、まず手を動かし、折り紙を使いながら考える。その後、実物に近い巨大なサイズで展開実験を繰り返し、最適な折り方を決める。事前にメンバー間でイメージを共有していたおかげで、本番でイカロスのセイルを折り畳む際にも、メンバー全員が一丸となって正確かつ丁寧に作業を行うことができた。森さんは、こうした折り紙の文化に基づく経験やノウハウの積み重ねがなければイカロスの成功はなかったという。

「セイルの薄い膜を小さく折りたたみ、宇宙で大きく広げるという私たちの技術は、宇宙開発に劇的な変化をもたらす可能性があります。実際にアメリカ航空宇宙局(NASA)でも、折り紙技術の応用に注目していると聞きます」と森さんは胸を張る。

イカロスで成功したこの技術は、今後、小型衛星の薄膜太陽電池パネルなどで順次実用化されるほか、イカロスよりも大型で、現在、開発が検討されている約40メートル四方の巨大な薄膜セイルを持つソーラー電力セイル探査機「オケアノス」でも使われる予定である。日本伝統の折り紙の技術は、 今後の壮大な宇宙開発に貢献することが期待されている。


ソーラー電力セイルの展開
1 ロケットから分離した後、正方形のセイルの角に取り付けた四つの重りを同時に解放する。
2 巻き付けたセイルを押さえているつっかい棒を少しずつスライドさせて、遠心力でセイルを徐々に引き出していく。完全に引き出すと十字の状態になる。
3 つっかい棒を倒すと、折り畳まれていたセイルが解放され、遠心力によってセイルが一気に広がる。
4 展開終了後も回転を維持することで、セイルが広がった正方形の状態を保つ。
Photos: Courtesy of JAXA

* 光子は、電磁波の量子(光の最小単位)である。