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INDEX

  • 布施さんの作品「くす玉」
  • 「北アルプス国際芸術2017」で展示された布施さんの大規模インスタレーション『無限折りによる枯山水 鷹狩』
  • 布施知子さん
  • 布施知子さんがデザインしたユニット折り紙の「くす玉」
  • 布施さんの作品「箱」
  • 布施さんの作品「きら星」

December 2021

ユニット折り紙の第一人者

布施さんの作品「くす玉」

一枚の紙でユニットと呼ばれるパーツを作り、それを複数個組み合わせて一つの作品を作り上げる“ユニット折り紙”と呼ばれる折り紙のスタイルがある。そのユニット折り紙を世界に広めた折り紙作家、布施知子(ふせ ともこ)さんの創作活動を紹介する。

布施知子さん

折り紙は、一枚の紙を折って様々な形を作り出すことが伝統的には基本であるが、“ユニット折り紙”はユニットと呼ばれる一枚の紙から作る同じ形のパーツを複数個組み合わせて一つの作品を作り上げる。その第一人者が布施知子さんだ。布施さんが作り始める以前からユニット折り紙は存在したが、布施さんは数多くの独自の作品を世に出し、100冊以上の本を著してユニット折り紙を世界に広めた。それらの著作のいくつかは英語、ドイツ語、イタリア語、韓国語、中国語などへ翻訳されている。

布施知子さんがデザインしたユニット折り紙の「くす玉」

布施さんのユニット折り紙の作品の中で代表的なものが、球形をした日本の伝統的な飾り物である「くす玉」をモチーフにした作品である。くす玉は、正方形、あるいは長方形の一枚の紙で一組のユニットを作り、それを糊(のり)は使わずに組み合わせて作り上げる。組み合わせるユニットの数は12組、あるいは30組とする作品が多い。くす玉の作り方を紹介した布施さんの著書によると、ユニット30組の作品の制作時間は少なくとも5時間とされているので、作るには根気が必要である。しかし、完成した作品は紙だけで作ったとは思えないほど、華やかな雰囲気を生み出す。くす玉は、紙の大きさや色、ユニットの形、組み合わせる数など様々な要素によって、その印象も大きく変わるので、アイデアは無限だ。

布施さんの作品「箱」

「私がユニット折り紙にのめりこんだ頃は、本格的にユニット折り紙に取り組んで、その世界を深掘りしようとする人がいなかったので、私は作家として立つことができました。それは、とてもラッキーでした。でも当初は、“一枚の紙で作品を完成させるのが折り紙だ”と考える人が多かったので、パーツをたくさん使うユニット折り紙は、折り紙ではないと言う人もいたのです」と布施さんは話す。

「日本は折り紙の母国と言われて、文房具屋さんやコンビニなどのいろいろなところで折り紙のための紙を気軽に入手できますし、小さな頃から折り紙に親しむ多くの機会があります。だから、かえって“折り紙ってこういうもの”という固定観念があって、そこから出られないところがあります。それに対して折り紙に馴染みが薄い海外の人は、先入観なく作品そのものを見て判断してくれるので、『これはアートだね』と言ってくれました」

布施さんの原動力は、折り紙の無尽な面白さだ。折り紙に魅了されてから60年以上経った今向き合っても、その魅力は尽きることはないという。

布施さんの作品「きら星」

「ユニット折り紙は、うまくいったかいかないか、結果がはっきり分かるものです。全てのユニットを組み立て終わって、作品ができあがった時の、ジグソーパズルの最後のピースがはまった時のような気持ち良さといったらたまりません! それに時々、でき上がった面に、自分でも想定していなかった模様が現れることもあります。それは、まるで折り紙の神様からの贈り物のようです。作家として新しい形や折り方を見つけて、その喜びを多くの人と共有したい、そういう思いで活動しています」

多くの作品と著作を世に出してきた布施さんは60代を迎えてから、先例のない大規模インスタレーション*に新たに挑戦している。その初めての作品『無限折りによる枯山水 鷹狩』は、布施さんが暮らす長野県大町市にある鷹狩山山頂の建物で、「北アルプス国際芸術2017」の際に、披露された。作品名にある“無限折り”とは、同じパターンの折を、何回も繰り返して作品を作り上げる折り方であり、一枚の紙で折られている。そんな無限折りによる幾何学的な円錐や円形の作品を見たドイツ人の観覧者が、「日本庭園の枯山水のようだ」とコメントしたことから、それを作品タイトルに後から付け加えたという。

「北アルプス国際芸術2017」で展示された布施さんの大規模インスタレーション『無限折りによる枯山水 鷹狩』

布施さんの折り紙への情熱は、無限折りのように尽きることがない。創作活動60年以上を越えてなお、日々、折り紙創作に熱心にいそしんでいる。

* インスタレーションは、特定の空間に物や装置を置いて、その全体を芸術作品として表現する現代美術の手法。