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  • 三味線演奏家の本條秀慈郎さん
  • 本條秀慈郎さんとサズ(長いネックをもつトルコのギター)奏者で指揮者でもあるネヂミ・クランさん
  • トルコ・アンカラでの伝統楽器の演奏者との共演(本條秀慈郎さん:左から二人目)

November 2021

海外で現代音楽と三味線とを結びつける音楽家

三味線演奏家の本條秀慈郎さん

毎年、文化庁は海外で文化活動に取り組む「文化交流使」を指名する。文化交流使は世界の人々の多様な日本文化への理解の深化や、外国の文化人とのネットワークの形成・強化につながる活動を展開することが目的だ。この文化交流使を紹介するシリーズの第一回は、「三味線」の演奏家、本條秀慈郎(ほんじょう ひでじろう)さんだ。

三味線は、日本の代表的な伝統楽器の弦楽器で、胴と長い棹*(さお)に張られた三本の弦を撥(ばち)で弾いて奏でる。単独、あるいは、他の日本の楽器とのアンサンブルで演奏され、伝統芸能の人形浄瑠璃や歌舞伎、日本舞踊に欠かせない。近年は、伝統的な分野以外でも演奏されている。

その可能性を求めて、国内外の現代音楽の作曲家に新作を委嘱しながら「現代の三味線音楽」の創造に取り組んでいる演奏家がいる。本條秀慈郎さんだ。

本條秀慈郎さんは、文化庁が指名する文化交流使**として2018年3月から10月まで、トルコ、アメリカ、イタリア、フランス、イギリス、ドイツ、チェコ、ロシアの8か国を巡り、現地の多くの演奏家とのコラボレーションに挑むとともに、新たな曲づくりに特に力を入れた。各国の作曲家に依頼して、三味線とファゴットとのアンサンブルや、三味線とオーケストラとの協奏曲などの新作を作曲してもらい、その演奏に意欲的に取り組んだ。

本條秀慈郎さんとサズ(長いネックをもつトルコのギター)奏者で指揮者でもあるネヂミ・クランさん

「文化交流使となったからには、普段なかなかできないことにチャレンジしたいと思いました。現地の作曲家に曲作りを依頼し、できあがった曲の調整を行い、演奏に臨むことは想像以上にハードで、大変“過酷”と言っても大袈裟ではありませんでした。ただ、単なる三味線の紹介だけにとどまらないことがしたかったし、何より大きな経験を積みたいと攻めの姿勢を貫きたかったから頑張れたと思います」

ヨーロッパの弦楽器と全く異なる三味線の音色は、訪問先で驚きをもって迎えられた。依頼した作曲家が三味線の特性を理解するとは限らない。楽曲の作曲があらかた出来上がったら、その完成に向けて楽曲全体について意見をぶつけ合う。そのプロセスで本條秀慈郎さんが大事にしたのは「できない」と言わないことだった。

「お互いを尊重しあえば、可能性が広がると感じました。そこで作曲された曲についてやりとりをしながら、曲を整理し、演奏して、ようやく完成に至ります」

トルコ・アンカラでの伝統楽器の演奏者との共演(本條秀慈郎さん:左から二人目)

克己的な挑戦を続け、合計21曲の新作が誕生した。

三味線の形や作りはバンジョーやギターに似ているが、大きな特徴は「さわり」にある。本條秀慈郎さんは「棹の天辺のあたりに、上下させることができる出っ張りがあり、そこに一番太い弦が触れています。これを『さわり』と言い、三味線独特の摩擦音を生みだしています。これによって3本の糸ですが、とても広がりのある音が生まれるのです」と言う。

数多い音で旋律を奏でる西洋の楽器に対して、1音チンと鳴れば、静まり返るような三味線は限られた単音の音色での表現を追求する楽器で、根本的に異なる。全く性質が異なる楽器を合わせる一つの曲を作り上げることになるが、本條秀慈郎さんと共演した各国の演奏家たちは「とてもエキサイティングな経験だ」と言っていたと、本條秀慈郎さんは語る。

「三味線は、伝統楽器ですから引き継がれるべき古典がありますが、私は、三味線が多様な現代音楽世界と結びつく可能性を感じています。デジタルで様々な音をつくることができる世の中ですが、今後も、伝統的な楽器が奏でる音で音楽の可能性を広げていきたい」と本條秀慈郎さんは言う。

文化交流使としての各国巡りは、そんな思いを具現化するための旅だった。本條秀慈郎さんはこの旅の成果から、更に世界の様々な人たちとの次なるコラボレーションに想いを膨らませている。

* 三味線の胴から上の、糸を張る細長い部分
** 文化庁では、芸術家、文化人等、文化に携わる方々を一定期間「文化交流使」に指名し、世界の人々の日本文化への理解の深化につながる活動や、外国の文化人とのネットワークの形成・強化につながる活動を展開している。http://www.culturalenvoy.bunka.go.jp/about.html