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  • 草千里ヶ浜
  • 阿蘇の草原で草を食べるあか牛
  • ヒゴタイ
  • オオルリシジミ
  • 野焼き

August 2021

阿蘇の草原の維持と持続的農業

草千里ヶ浜

熊本県阿蘇地域には、1000年以上前から、放牧地として利用されていたとされる広大な草原があり、野焼き・放牧・採草が繰り返されてきた。美しい草原の維持と循環のための人々による様々な取組が評価され、2013年、「阿蘇の草原の維持と持続的農業」として、国連食糧農業機関(FAQ)の世界農業遺産に認定された。

阿蘇の草原で草を食べるあか牛

熊本県の象徴的な存在である巨大カルデラ、阿蘇カルデラの中央に位置する阿蘇五岳(あそごがく)の一つ、烏帽子岳(えぼしだけ)の北麓に広々とした草原がある。これは、視界を遮るものがない一面の草原が広がる「草千里ヶ浜(くさせんりがはま)」であり、およそ3万年前にできた二重の火口跡に広がる約78万5000平方メートルもの広さに及ぶ大草原だ。標高は1000メートルを超えるものの、気軽に車で行けるので、多くの人が訪れる人気の観光スポットになっている。

「実は、阿蘇山周辺のこれらの草原は自然にできたものではないのです。古くから、人々が野焼き・放牧・採草を繰り返し、膨大な時間をかけて形成され、維持されてきたのです。10世紀初頭にはすでにこのような草原がつくられていたと考えられており、稲作の労働力として欠かせない牛馬の飼料や放牧場として、また堆肥生産の場として主に地域の農業を支えてきました」と話すのは、熊本県阿蘇地域振興局の坂本琢さん。

ヒゴタイ

阿蘇の土壌は、全般に降り積もった火山灰のために酸性土壌であり、農業には適していなかった。しかし、人々は、代々、牛馬の糞と草原の草を使った堆肥で改良してきた。今でも、谷にある集落と山上にある草原を結んだ、人と牛馬が一体となって草を運んだ「草の道」と呼ばれる坂道が残る。崖伝いの坂道は、阿蘇五岳北麓の小さな町である阿蘇市一の宮町だけでも25 本を数える。人々の絶え間ない努力の積み重ねが、集落の農業を支えてきた。草原に咲く花々を摘んで、祖先の霊に花を手向ける「盆花採り」と呼ばれるこの地方に伝わる風習は、先人たちの苦労への感謝の表れであろう。

オオルリシジミ

草原には、絶滅危惧種に指定されている蝶のオオルリシジミなど、阿蘇の草原ならではの多くの動植物が生育している。約600種を超える植物には、日本列島が氷河期には大陸と陸続きだったことを示す多年生植物のヒゴタイなども見られる。毎年春に火で草を焼き払うのに、なぜこれほどの植物が生育するのか。「焼畑農業のように長時間焼かずに短い時間で素早く草を焼き払うため、土中の温度があまり上がらず、草の根や種に影響を与えないからなのです」と坂本さんは説明する。

しかし、近年は、農業や畜産業の担い手不足によって草原の維持管理が難しくなり、草原の荒廃や減少が懸念されるようになっている。

野焼き

「こうした流れを食い止めるため、現在は持続性のある草原環境保全の取組が進められています」と坂本さん。野焼き・放牧・採草というサイクルを継続していくため、特に家畜の放牧や飼料の採取に使われる牧野(ぼくや)では、地域外からの放牧牛を受入れるほか、阿蘇の名産でヘルシー肉として人気が高い「あか牛」のオーナー制度などにも取り組む。過去には、野草をエネルギー源として利用するバイオマスエネルギーの実験事業の実施や、草原環境の素晴らしさを幅広い層に向けて理解してもらうためのエコツアーの実施なども行われてきた。阿蘇の大草原と、それにまつわる希少な自然や文化を維持するための様々な活動は、今後とも、より強力に進められていくという。