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  • 風鈴とすだれ
  • お盆で飾る、祖先の霊を送り迎えするための、キュウリで作った馬とナスで作った牛
  • 生け花をする広田千悦子さん
  • 酢醤油で食べるところてん
  • 甘酒
  • 浴衣を着て盆踊りを行う人々
  • 祭りで人々によってかつがれる神輿
  • 仏教の経典を書き写したり、なぞり書きをしたりする「写経」

August 2021

日本の夏の過ごし方

生け花をする広田千悦子さん


日本の夏は、概して蒸し暑い。その蒸し暑い夏を乗り切るために、日本人は昔から様々な知恵を絞ってきた。伝統的な日本の行事やしつらいについて教える教室を主宰する広田千悦子さんに、日本ならではの夏の過ごし方について話を伺った。

風鈴とすだれ

日本の夏は非常に蒸し暑いですが、日本人は夏を快適に過ごすために、どのような工夫を行なってきたのでしょうか。

冷房がない時代、日本人は厳しい暑さをしのぐため、住居、衣服、食事に様々な工夫を凝らしてきました。例えば、伝統的な日本家屋では、軒(のき)を深くして、日差しが室内の奥に入らないようにしています。これにより、室内の温度を上がりにくくしています。また、細く割った竹や葦(ヨシ)の茎を編んで作る「簾」(すだれ)を軒に吊るします。風通しを保ちながら、日除けにもなるからです。その他、家の前の道や庭に水を撒く「打ち水」を行ったりします。打ち水はほこりが舞い上がるのを防ぐとともに、気化熱によって気温が上がるのを抑えます。

私は普段から、伝統的な衣服である「着物」を着ることが多いのですが、夏は麻や木綿など、肌触りが良い素材の着物を選びます。着物は通気性が良い上に、体全体を生地で覆うので、肌に直射日光をさらさずに済みます。最近は、通常の着物よりも簡素な「浴衣」が、夏のファッションとして若者に広がっています。

日本人は、聴覚、視覚、味覚などの感覚を刺激することで、涼しさを感じさせる工夫も行ってきました。例えば、風鈴です。風鈴はもともと魔除けのためのものでした。音が聞こえるところには悪いことが起きないと信じられていたのです。それが時を経て、涼しさを感じる夏の風物詩となりました。風鈴自体が涼しい風を生み出す訳ではありません。しかし、風に揺られて鳴る風鈴の音を聞き、想像力を働かせることで涼しさを感じるのです。

日本ならではの夏の伝統的な食べ物や飲み物は何でしょうか。

今は冷蔵庫があるので、一年を通して、あらゆるものが飲食できるようになりました。それでも多くの日本人が夏に食べるものがあります。例えば、テングサという海藻から作られる「ところてん」は、暑くなった体を涼しくしてくれる食べ物です。透明な麺状で、見た目も涼やかですし、喉越しも良いです。黒蜜をかければ甘く、酢醤油をかければさっぱりとした味わいを楽しめます。

また、夏には、お米から作る甘い飲み物である「甘酒」もおすすめです。甘酒は冬に暖めて飲むものと考える日本人も多いですが、夏に冷やして飲んでも美味しいです。甘酒はブドウ糖やアミノ酸などの栄養素が豊富で、「飲む点滴」とも言われます。実は、江戸時代(17世紀初頭〜19世紀後半)には、夏の疲労回復のために飲まれる「栄養ドリンク」として人気でした。なお、当時、甘酒と同じように夏に飲まれていたのが、「枇杷葉湯」(びわようとう)です。ビワやシナモンなどの葉を混ぜて煎じた飲み物で、これも疲労回復に効果があると言われます。今は見かけることはありませんが、江戸時代に甘酒や枇杷葉湯を町で売る行商人の姿は夏の風物詩でした。

酢醤油で食べるところてん
甘酒

日本の夏に行われる伝統的な行事を教えてください。

地域によって異なりますが、7月中旬、あるいは、8月中旬に「お盆」が行われます。お盆は、年に一度、現世に戻ってくる祖先の霊を迎え、もてなし、見送る行事です。その内容は地域や家庭によって様々です。最近、都会で行われるのは珍しくなっていますが、例えば、各家庭の門前で、霊が迷わないための目印として、火が焚かれます。また、家の中には、祖先の霊が乗る乗り物を、旬の野菜などの素材を使って飾ります。乗り物は、祖先の霊が早く戻ってきてもらうためにキュウリで馬を、ゆっくりと帰ってもらうためにナスで牛を作ることが多いです。お盆の時期には、地域でも、「盆踊り」が催され、人々が輪になったり、道を歩きながら音楽に合わせ踊ります。今は娯楽となっていますが、もともとは、戻ってきた祖先の霊をもてなして、一緒に過ごして送り出すためという意味が込められています。

お盆で飾る、祖先の霊を送り迎えするための、キュウリで作った馬とナスで作った牛

夏には、各地で数多くの祭りも開催されます。日本では、かつて夏に疫病の流行や自然災害によって多くの人が犠牲になりました。夏祭りは、それらを防ぎ、秋の豊作を祈るために始まったと言われます。夏祭りでは、神様の乗り物である「神輿」を人々が担いで、街中を練り歩くことも多いです。この時、担ぎ手は神輿を激しく振り動かします。これは、神様の力を強め、疫病退散や豊作につなげると言われます。

浴衣を着て盆踊りを行う人々
祭りで人々によってかつがれる神輿

新型コロナウイルス感染症収束後、夏に日本を訪れる海外の方々に体験して頂きたいとお考えのことをご紹介ください。

祭りや花火大会など大勢の人が集まる賑やかな行事も体験して頂きたいですが、夏の静けさも味わって頂きたいです。夏の静けさを楽しめる場所の一つは、お寺です。私は古いお寺が数多くある神奈川県鎌倉市の近くに住んでおり、しばしば、お寺を訪れますが、夏には他の季節とは少し違った静けさを感じます。先に述べましたように、日本の伝統的な建物は軒(のき)が深いので、日中でも建物の中は薄暗いですが、日の光が強い夏は、より一層、暗く見えます。建物や木々が作る影も、より濃く見えます。そうした光と影のコントラストが、夏独特の静けさを感じさせてくれるのかもしれません。

竹林や苔の美しい庭のあるお寺を歩くと、暑さが厳しい時でも、涼しさを感じられます。また、お寺によっては、仏教の修行の一つで、お経を書き写す「写経」を体験することもできます。文字を書くことに集中すると、暑さも忘れさせてくれるのではないでしょうか。

仏教の経典を書き写したり、なぞり書きをしたりする「写経」