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  • プラスチックストローの代替として用いられる、環境に優しい木のストロー
  • 鉋掛けの技術を用いて、スライス材を巻いて成形される「木のストロー」
  • 「木のストロー」作成キット

July 2021

間伐材から生まれる木のストロー

鉋掛けの技術を用いて、スライス材を巻いて成形される「木のストロー」

日本のある住宅メーカーが、伝統技術であるカンナ削りから着想を得て、間伐材を薄くスライスし、機能性、安全性に優れた「木のストロー」を開発した。

プラスチックストローの代替として用いられる、環境に優しい木のストロー

2019年6月のG20大阪サミットで、2050年までに海洋プラスチックごみによる追加的な汚染をゼロにまで削減することを目指す「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」が共有されたことは記憶に新しい。プラスチックゴミの削減は世界的な課題となり、プラスチック製ストローの使用を廃止する企業もある。

そんな中、日本で開発された「木のストロー」が、国内外で大きな注目を集めている。

日本でも様々な代替製品として紙製や竹製のストローなどが登場する中で、東京に本社を置く住宅メーカー、株式会社アキュラホームが開発した「木のストロー」は、厚さわずか0.15ミリメートル、スライスした木材を螺旋状に巻いたものだ。2018年の発表以来、グッドデザイン賞を始め数々の賞を受賞した。G20大阪サミットでも使用された。

「木のストロー」は、環境ジャーナリストの竹田有里さんと、アキュラホーム広報課の西口彩乃さんが森林管理問題を共有したことから誕生した。竹田さんは、取材活動を通じ、2018年に発生した西日本豪雨災害の一因が山林の水源涵養機能*の低下にあること、解決には雨水を蓄える森林の力を高める間伐**作業などの管理が重要であることを知った。そこで、竹田さんは、アキュラホームの西口さんに、間伐材の有効な活用方法について木のストローがつくれないかと相談を持ち掛けた。それが開発できれば、間伐作業の促進につながる。そうして、彼女らが考えついたのが世界初の木製ストローだった。しかし、アキュラホームは住宅メーカーであり、日用雑貨は明らかに畑違いだった。

それを承知の上で、西口さんは「木材を扱うメーカーとして、森林保全活動に関わることには大きな意義がある」と社内を説得、プロジェクトがスタートすることになったのである。

未成熟で柔らかい間伐材によるストロー開発には数々の問題があった。解決のヒントは、1981年の創業以来、同社が大切にしてきた伝統技術の一つ、材木の表面を滑らかにする「鉋掛け(かんながけ)」にあった。間伐材を鉋で薄くスライスして巻き上げたことで、機能性、安全性ともに優れ、木目が浮き出る美しい「木のストロー」が完成した。

「製品を作るだけでは環境問題に寄与できません。“木のストロー”を多くの人々に知ってもらい、使われることで森林の維持管理に還元される、資源循環のモデルにする必要があります」と西口さんは話す。

その思いから、同社は製法を無償で公開、複数の団体と協力しながら木のストローの促進や資源循環の啓発をしている。スライス材の巻き上げは機械を使わない簡便な手作業であり、CO2排出を抑制するとともに障害者雇用にもつながる。実際、横浜市が製造・販売に参画、また東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)の関連会社でも製造され、新幹線の接客に導入するなど、「木のストロー」プロジェクトは少しずつ広がりを見せている。

「木のストロー」作成キット

アキュラホームは完成品だけでなく、個人で作れるキットも販売している。「環境問題への取組は、一人一人の意識が大切です。一人でも多くの方が木のストローを知ることで、環境について考えるきっかけになれば、大きな力になります」と西口さんは言う。

そのキットには、小さなことかもしれないが、木のぬくもりを感じ、森を思い、海を思い、地球を思う、そんな願いが込められている。

* 森林の土壌が、降水を貯留し、河川へ流れ込む水の量を平準化して洪水を緩和するとともに、川の流量を安定させる機能
** 森林の混み具合に応じて、樹木の一部を伐採し、残った木の成長を促す作業