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INDEX

  • 中土佐町で演奏するトリニダード・トバゴ国立大学の学生のスチールパンの演奏グループ「UTT PAN PHOENIX (ユーティーティー・パン・フェニックス)」(2019年8月)
  • オンラインのホストタウンサミット2021において、鳴子やスチールパンを使用してソカ風にアレンジしたよさこいダンスを披露した子供たち
  • よさこいを踊るトリニダード・トバゴ国立大学の学生(2019年8月)
  • 披露されたUTT PAN PHOENIXの演奏(2019年8月)
  • オンラインのホストタウンサミット2021において、鳴子やスチールパンを使用してソカ風にアレンジしたよさこいダンスを披露した子供たち

June 2021

トリニダード・トバゴの国民楽器がつなぐホストタウンの文化交流

中土佐町で演奏するトリニダード・トバゴ国立大学の学生のスチールパンの演奏グループ「UTT PAN PHOENIX (ユーティーティー・パン・フェニックス)」(2019年8月)

高知県中西部の中土佐町(なかとさちょう)と、カリブ海の南に位置するトリニダード・トバゴ共和国(以下「トリニダード・トバゴ」)との間で、オンラインを活用した文化交流が進んでいる。

披露されたUTT PAN PHOENIXの演奏(2019年8月)

高知県中土佐町は、2019年6月にカリブ海に浮かぶ島国トリニダード・トバゴのホストタウンとして登録された。地球のほぼ反対側に位置するこの2つの地域の交流のきっかけは、およそ3年前にさかのぼる。

2018年8月に、町内の有志が、ドキュメンタリー映画『スティールパンの惑星*』を上映し、同国の音楽や食文化の魅力を紹介するイベントを開催し、住民の間でのスチールパンやトリニダード・トバゴへの関心を高めた。スチールパンは、ドラム缶から作られるトリニダード・トバゴ発の打楽器であり、世界三大カーニバルのひとつ、トリニダード・カーニバルに欠かせない楽器として知られている。

「そんな時期に、在トリニダード・トバゴ日本大使館員から東京オリンピック・パラリンピックのホストタウンがまだ決まっていないという連絡が日本のレコード会社であるLIME RECORDS (ライムレコード)の井上知子(いのうえ・ともこ)さんにあったのですよ」と、2021年3月まで中土佐町まちづくり課の主幹を務めていた乾智也(いぬい・ともや)さんは言う。祖父母が中土佐町出身である井上さんは、これまでにトリニダード・トバゴを始めとするカリブ海の国々との積極的な文化交流事業を行ってきており、中土佐町に声をかけた。

よさこいを踊るトリニダード・トバゴ国立大学の学生(2019年8月)

そのトリニダード・トバゴのカーニバルは、高知伝統のよさこい祭り**と相通じる雰囲気と高揚感がある。そんなこともあって、ホストタウンの話はとんとん拍子に進んだ。2019年7月、中土佐町とトリニダード・トバゴは正式にホストタウンの関係を結び、音楽や祭りを通じて文化交流を積極的に行っていくことが決まった。翌月にはトリニダード・トバゴ国立大学の学生5人によるスチールパンの演奏グループ「UTT PAN PHOENIX(ユーティーティー・パン・フェニックス)」が来日した。彼らは、中土佐町に招かれ、自作したミニスチールパンを使う地元小学生と共演するスチールパン演奏のイベントが行われた。

その後、新型コロナウイルスの流行により、東京オリンピック・パラリンピック競技大会は延期になり、予定していた応援ツアーや選手と住民との交流などの直接行き来するイベントは残念ながら断念せざるを得なくなってしまった。しかし、オンラインによる交流を地道に続け、現在に至っている。2021年2月に全国のホストタウンと五輪出場国を結んで日本政府が主催した「ホストタウンサミット2021」もその一つだ。

このオンラインイベントでは2019年に来日した「UTT PAN PHOENIX」とそのとき彼らと交流した町民が結成した中土佐町のバンド「Oh!No!Me!!!」がインターネットを介してスチールパンの演奏を共演した。さらに、彼らに加え、地元小学生、「大野見源流子ども太鼓」のメンバーが、トリニダード・トバゴ発祥の「カリプソ」と同種の音楽ジャンルである「ソカ(soca)***」風にアレンジした、よさこいの演奏と踊りの熱演に参加した。また、演奏の合間には遠く離れた2つの地域の子どもたちが、通訳を介して語り合った。

オンラインのホストタウンサミット2021において、鳴子やスチールパンを使用してソカ風にアレンジしたよさこいダンスを披露した子供たち

「コロナ渦のため直接会ったり、話したりできないのは残念ですが、むしろ私たちはオンライン交流に大きな手応えを感じています。実際に日本とトリニダード・トバゴとの間を行き来するには、時間が非常にかかります。飛行機を乗り継いで、片道1日以上。また、費用もかさみます。ところが、オンラインなら、時差の考慮は必要であるものの、時空を超えて個人レベルでも積極的に交流を深めていくことができます」と乾さんは言う。

音楽と祭りと五輪をきっかけに始まった文化交流は、インターネットを活用して、大会後もさらに発展していくことが期待されている。

* カリブ海に浮かぶ島トリニダード・トバゴで、1940年代に実際あった誕生秘話を元に描いたノンフィクションドラマ。
** 高知県の最も有名なお祭り。鳴子をもった人々が、高知中の様々な場所で伝統的や現代的な曲に合わせて踊る。
*** ソカ(soca)は1970年代、ソウルやカリプソなど、トリニダード・トバゴの東インド系とアフリカ系の人の音楽が融合して生まれた同国発祥の音楽ジャンル。