Skip to Content

INDEX

  • オンラインで行われた「ホストタウンサミット」での高校生による発表の一場面

June 2021

ドイツと交流を深めるホストタウンの高校生

オンラインで行われた「ホストタウンサミット」での高校生による発表の一場面

ホストタウンである5つの市の高校生が、スポーツを通じた共生社会と地域活性化に関する提言を作成した。

日本の人々が東京オリンピック・パラリンピック競技大会に参加する国・地域の人々と交流する「ホストタウン」において、ドイツ連邦共和国(以下「ドイツ」)のホストタウンとして登録されている全国の5市(山形県の鶴岡(つるおか)市と東根(ひがしね)市、岡山県真庭(まにわ)市、長崎県島原(しまばら)市及び宮崎県延岡(のべおか)市)に住む12名の高校生が、「スポーツを通じた共生社会・地域活性化」をテーマに、日独両国の取組を学び、地元の自治体向けの提言を約3か月かけて共同で作成した。

その準備が始まったのが、2020年12月初旬に行われたオンライン会議。12名の高校生と、高校生をサポートする、ドイツ語学・現代ドイツ研究が専門の三瓶愼一(さんべ・しんいち)慶應義塾大学教授と大学生7名が参加した。この会議後、高校生のメンバーは「共生社会」と「地域活性化」のグループに分かれ、提言の作成を進めた。

その準備の一つが、日独の関係者へのインタビューである。メンバーは、ドイツ青年障害者スポーツ協会会長、ドイツの自治体の職員、そして、日本人のパラアスリートなどにオンラインで話を聞いた。

真庭市の勝山高等学校蒜山(ひるぜん)校地の川越博文(かわごえ・ひろふみ)さんは「困難に直面する中でも、常に前向きな姿勢のパラ馬術の日本人選手に、とても刺激を受けました。また、年齢、性別、障害の有無に関係なく、一緒にスポーツを楽しめるドイツの制度が印象的でした」と話す。

メンバーが、ドイツの関係者にインタビューをする中で、ドイツの共生社会実現と地域活性化において重要な役割を果たしていると感じたのが、地域スポーツクラブ「フェライン」(Verein) である。日本でスポーツを行っている中高校生の多くは、それぞれが通っている学校のクラブに所属している。一方、ドイツでは、生徒は各地域にあるフェラインに参加するのがより一般的である。フェラインでは、高齢者、障害者、外国人など様々な人々がスポーツを行っており、こうした人同士の交流が自然と生まれる場にもなっている。

鶴岡市の羽黒高等学校の遠藤明音桜(えんどう・めとろ)さんは「共生社会の実現には、フェラインのような学校や場所で、障害のある人とない人が共に勉強やスポーツをすることが非常に重要であると思いました」と話す。

インタビューは、各ホストタウンの自治体職員に対しても行われた。

「私が住む市の観光担当者と話した時、非常に面白いイベントが市内でたくさん実施されていることを初めて知りました。自分たちで地域を知る努力も大切だと思いました」と延岡市の延岡高等学校の城後真緒(じょうご・まお)さんは話す。

インタビューの後、メンバーは、メールやオンライン会議を通じたコミュニケーションを重ね、提言を作成した。

「制度も文化も異なるドイツと日本を、簡単には比較できません。ドイツの取組を、いかに日本で実現可能な取組に活かすかを考えるのが、難しかったです」と島原市の島原高等学校の松本悠里(まつもと・ゆうり) さんは話す。

「提言の作成と学校の勉強とを両立させるのが大変でしたが、他の市の高校生と意見交換したことで、様々なアイデアが生まれました」と島原高等学校の森崎匠(もりさき・たくみ)さんは話す。

高校生の提言は、2021年2月21日に「ホストタウンサミット」(オンライン開催)で発表された。発表には、各自治体の首長や東京のドイツ大使館の職員などもオンラインで参加した。発表では、「共生社会」を担当したグループが、共生社会を実現するために、自分と異なる人への理解や交流の促進を提言した。具体的には、小中学校で共生社会に関して教える教材の作成、学校での障害者スポーツ体験の実施、スポーツに関連する施設や制度のバリアフリー化などの対策を提案した。「地域活性化」を担当したグループは、スポーツを通じた異なる世代との交流の推進が、郷土愛を育み、地域活性化につながるとして、世代間交流を促す施設やウェブサイトの開設、各種スポーツ団体と高校生との交流などを提案した。

市長たちからは、「地域活性化にとって非常に大事な提言でした」、「市議会で提言を報告したい」といった高い評価を得た。

今回の取組は、それぞれのメンバーにとって、将来を考える上でも、大きな経験となった。

「将来は、起業するのが私の夢です。その時は、障害者や外国人のことも常に考えてビジネスをしたいと思います」と話す加藤智子(かとう・ともこ)さんは、延岡市の延岡星雲高等学校を卒業し、2021年4月から、東京の大学で経済を学んでいる。

「今回の経験は、以前から関心のあった、『ソーシャルビジネス』を学ぶ上で、とても役に立ちました。SNSを通じて、互いの個性を尊重し、自尊心を高められるオンラインのコミュニティを立ち上げたいと思っています」と鶴岡市の羽黒高等学校の今野未涼(こんの・みすず)さんは話す。

ドイツとのホストタウンに住む高校生の取組は、新たなメンバーとテーマで、5月から再び始まっている。メンバーは、7月から9月までの東京オリンピック・パラリンピック競技大会の期間中にオンライン上に開設される「ホストタウンハウス」で、提言を発表する予定である。

2021年2月21日にオンラインで行われた「ホストタウンサミット」で、発表を行った高校生を始めとする参加者