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May 2021

おいしさを「見える化」する

技術の運用

スマートフォンやタブレット端末のカメラで野菜や果物を撮影しただけで、そのおいしさが「数値化」されて見ることができる技術が誕生した。

スマートフォンやタブレット端末のカメラで野菜や果物を撮影すると、その味に関する数値が瞬時にグラフとして表示される。この「おいしさの見える化」の技術を開発したのは、福島県伊達市のマクタアメニティ株式会社の代表取締役・幕田武広さんとその研究グループだ。

この技術の特徴は、人間の目では判別し難い微妙な色の違いから、農作物の味を診断することである。使い方は実にシンプルだ。黒い背景の中に野菜や果物を置き、専用アプリを搭載したスマートフォンやタブレット端末のカメラで撮影し、アプリの解析ボタンを押すだけ。すると、わずか数秒後には、基本5種類の味(甘味、塩味、酸味、苦味、うま味*)の分布を表すレーダーチャートに加え、「糖度約4.6パーセント。酸っぱい。酸味があります」といった解説が画面に表示される。

「例えば、ある農作物の色は、アントシアニンやカロテノイドなどの色素によって発現します。赤色を表すアントシアニンは甘み、黄色を表すカロテノイドは旨みと関連しているのです。この相関を利用して、野菜や果物の色から味を分析しています」と幕田さんは話す。

撮影した画像データを光の3原色(赤・緑・青)に分光し、デジタル化する(RGBヒストグラム)。そのデータに基づき、各色の光の波長を記憶したAIが、味覚情報データベースと照合することで、瞬時においしさを解析して表示するというわけだ。本AIはクラウド(サーバ)におかれ、端末との通信でデータを解析表示するので、通信環境があれば、表示言語等ニーズに沿ったローカライズ(特定地域適用化)により、世界中どこでも使用できる。

農産物のおいしさを数値化して表示する手段には、農産物から採取した汁の成分を計測したり、高額な大型装置である味覚センサーで計測する方法などがある。これらは、手間やコストの面から、一般農家や店舗での導入は難しかった。しかし、マクタアメニティのシステムは、安価で導入できる上に、スマホ対応のため操作が簡単で、かつ、農産物を傷つけずに出荷時や店先などでも手軽に操作できるというメリットがある。

「この仕組みを使えば、生産者は出荷する農産物のおいしさを、より具体的にアピールすることができます。また小売店や飲食店では、野菜や果物それぞれの“味の個性”を活かしたレシピを開発し、消費者に提案することもできるでしょう」

幕田さんは、元々、福島県の有機農産物を首都圏に流通させる事業を展開してきた。その事業展開の中で、かねてから農作物の流通システムの課題を感じていた。農作物の多くは需給バランスや形、大きさで価格が決まる傾向が強い。たとえ味が良い農産物であっても、形が悪く、大きさが小さいと安くされたり、廃棄されてしまうものもある。幕田さんは、見た目だけでなく、本当においしく付加価値の高い農作物を出荷した生産者が、より報われる、また消費者にも「適正な商品選別」などのメリットがあるシステムにしたいという思いが募っていった。

研究に着手したのは10数年前。きっかけは、画像解析で味を診断するというアイデアを持っていた山形大学学術研究院の研究者との出会いだった。経済産業省の補助事業に採択され、この資金を活用して4種類の野菜(キュウリ、ミニトマト、コマツナ、ホウレンソウ)の色に関するデータと、検査装置で診断した分析データ、そして実食による食味データを比較する研究に着手した。その結果、色のデータと食味のデータには、予想以上に強い相関関係があることがわかった。こうして、「おいしさの見える化」技術のビジネス化が本格スタートした。

現在では、ブロッコリー、キャベツ、ニンジンといった14種類の野菜と、イチゴ(とちおとめ)、リンゴ(ふじ)、サクランボ、ブドウ(巨峰・シャインマスカット)、温州ミカンの5種類の果物について、相当数の食味データを蓄積したデータベースが構築されている。これから、対応する品目は順次増やしていく予定だ。

「同じデータでも、生産者が欲しい情報と販売店が欲しい情報の形は異なりますから、用途に応じたデータのカスタマイズを工夫していきたい。また、栄養素などの機能性データも加われば、さらに利便性は高まるはずです。このシステムをさらに進化させることで、付加価値の高い農作物が正当に評価される、健全なサプライチェーンをつくりたいと思っています。また、流通インフラが未成熟な新興国等での活用も想定しています」と幕田さんは話す。

AIを活用した「おいしさの見える化」技術は、単に見た目がよくない野菜や果物の廃棄を減らし、味の良さを含めた高品質の青果の安定的な流通の実現へとつながる可能性を秘めている。

* うま味は食品中のアミノ酸やヌクレオチドが作り出す風味のある味覚のこと。