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  • 実証実験の見学に集まった幼稚園児の前で走る「ゆっくりカート」
  • 愛知県春日井市の高蔵寺ニュータウン
  • 「高蔵寺おでかけアプリ」のスクリーン画像
  • AIオンデマンド乗合サービスを提供するタクシー

March 2021

高齢化が進む地域の新しい交通システム

実証実験の見学に集まった幼稚園児の前で走る「ゆっくりカート」

住民の高齢化が進む愛知県春日井市の高蔵寺ニュータウンでは、高齢者が抱える日常的な移動手段に関する課題に対応するための実証実験を行っている。

愛知県春日井市の高蔵寺ニュータウン

戦後の市街地開発で全国に誕生したニュータウンは、鉄道やバスで近隣都市と結ばれ、都市で働く人々のベッドタウンとして生活を支えてきた。しかし、半世紀余りを経て、住民の高齢化や転出による人口減少が進む中、エリア内の交通網の維持が課題の一つになっている。

1968年、日本有数の大都市である名古屋市(人口約230万人(2020年))郊外に誕生した総面積約700ヘクタールに及ぶ高蔵寺ニュータウン。名古屋市すぐ北東に隣接する春日井市の東部丘陵地に位置し、名古屋駅までは快速電車で30分弱と名古屋市までのアクセスがよく、発展してきた。しかし、現在はピーク時の人口約5万2000人から2割ほど減少、住民の高齢化も進んでいる。人口の減少に伴って、地域内の公共交通の要であるニュータウン内のバス路線の運行本数は減少している。

広大な丘陵地を造成した高蔵寺ニュータウンは、坂道が多く、バスを利用するにもバス停まで坂道を歩かなければならないため、買い物や通院といった日常生活で自家用車を利用する住民が多い。

春日井市まちづくり推進部都市政策課の津田哲宏主査は「今後さらに高齢化が進めば、免許を返納する方も多くなり、クルマを運転しない人がどんどん増えるでしょう。そうなると住民の日常的な移動手段をどう確保するかが大きな問題になってきています」と話す。

こうした課題に対応するために、春日井市は高蔵寺ニュータウンにおいて、名古屋大学、民間企業などのステークホルダーと連携して、様々なプロジェクトを実施している。同市の取組は2019年5月に国土交通省の「スマートシティモデル事業」の「先行モデルプロジェクト」に、同年6月には、国土交通省と経済産業省の「スマートモビリティチャレンジ」の「パイロット地域」に採択された。

AIオンデマンド乗合サービスを提供するタクシー

さらに、2020年3月には内閣府の地方創生推進交付金の「Society 5.0タイプ」の交付対象事業としても採択されている。これらのプロジェクトでの取組の一つが、自動運転車両による移動サービスの実証実験である。

春日井市と名古屋大学は、ニュータウンの中でも戸建て住宅が多く高齢者の比率が高い石尾台地区で「ゆっくり自動運転サービス」と呼ばれる実験を実施している。1キロメートル四方ほどの同地区に約130カ所の乗降場所を設けられ、電話で予約を入れると、自宅近くから目的地まで利用できる。車両は電動ゴルフカートを改造したもので、万一のトラブルに備えて係員が2名乗車する。

これまで期間を限定して何度か行われた実証実験では、「無料で手軽に利用でき、乗り心地も快適だ」、と住民からはとても好評だ。今年2月から3月まで行われた実証実験では、新開発の8人乗り小型バスを導入し、車両の安全性や快適性を高めた。2022年4月の本格運用に向け、行政と地域住民の役割分担や事故時の責任のあり方の整理にも取り組んでいる。

「高蔵寺おでかけアプリ」のスクリーン画像

高蔵寺ニュータウン内では、ほかにも、乗合タクシーの「AIオンデマンド乗合サービス」や、MaaSアプリの「高蔵寺おでかけアプリ」などの実証実験も行っている。乗合タクシーは「気兼ねなく利用でき、割安さが魅力」と利用者の声。また、「高蔵寺おでかけアプリ」は、地域の移動手段が一括検索できるよう、携帯大手KDDIと名古屋大学、春日井市が共同で開発した。このアプリを使ってニュータウン内の循環バスや乗り合いタクシーに乗れば、運賃ばかりでなく、協賛店舗での買い物や飲食時に割引を受けられることもあり、1月時点で400件以上アプリがダウンロードされている。

春日井市は、地域の特性に合わせて移動の利便性を高めながら、まち全体の活力を維持していくことを目指している。そのためにも、現在実施されている様々な取組を通じて、新しい交通システムの導入が推進されることが大きく期待されている。