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  • 秋山弘子東京大学高齢社会総合研究機構客員教授

February 2021

高齢社会の新たな可能性

秋山弘子東京大学高齢社会総合研究機構客員教授


日本では高齢化が急速に進んでいるが、社会の中で元気で活躍する高齢者も増えている。東京大学高齢社会総合研究機構客員教授の秋山弘子さんに高齢社会の可能性について話を伺った。

2018年に閣議決定した「高齢社会対策大綱」は「65歳以上を一律に『高齢者』と見る一般的な傾向はもはや現実的なものではなくなりつつある」と述べていますが、日本の高齢社会の現状を教えてください。

1950年に日本人の平均寿命は60歳弱でしたが、2019年には約84歳となりました。また、65歳以上が人口に占める割合も1950年には約5%でしたが、2019年には約28%に達しています。その結果、高齢者で、病気になったり、介護が必要となる人が増えています。しかし、その一方で、元気で長生きする人もまた、増えています。東京都健康長寿医療センターが1992年と2002年に高齢者を対象に、老化の度合いを測る指標の一つである、通常の歩行速度を調査したところ、男女共に10年間で平均11年分も速くなっていたのです。つまり、2002年に75歳だった人の歩行速度は、1992年に64歳だった人の歩行速度と同じだったのです。

元気で長生きできるようになることで、かつての人生60年の時代と比較すると、より多様な人生設計が可能になっています。例えば、会社を退職した人の余生は、これまでは短かったですが、今は退職後、長いセカンドライフが待っていますから、退職前とは全く違うキャリアを築くことにもチャレンジできるようになったのです。

高齢者のセカンドライフを充実したものにするために、どのような取組が必要でしょうか。

少子高齢化が進む日本では、自立して、健康に暮らせる「健康寿命」を延ばしていくこと、そして、高齢者が生きがいを持って、安心して生活できる環境を整えることが、今後の大きな課題です。これらの課題を解決するために、東京大学高齢社会総合研究機構(IOG)は、地方自治体や企業と連携して様々なプロジェクトを実施しています。その一つが、住民の高齢化が進む千葉県柏市の豊四季台(とよしきだい)団地とその周辺地域での高齢者の就労支援です。日本の高齢者は、できる限り長い期間、現役でいたい、社会の中で何らかの役割を果たしていたいと考える人が多いです。しかし、実際に会社を退職した人に話を聞くと、「することがない」、「何をして良いか分からない」と言う人も結構います。そこで、プロジェクトでは、地元の農家や企業と協力して、農業や 育児などの分野での高齢者の就労を支援しています。自分が暮らす地域で、無理のない範囲で働くことよって、高齢者は生きがいや、人とのつながりを持つことができ、身体的、精神的な健康維持につながっています。また、人手不足など、地域の課題解決にも貢献しています。

政府でも2016年から、高齢者がその知識や経験を活かし、年齢に関わりなく働くことができる地域を支援する事業(厚生労働省の生涯現役促進地域連携事業)を全国各地で展開しています。

高齢者の知識や経験が活かされる高齢社会には、どのような可能性があるか教えてください。

日本では、今後、高齢者のニーズに応える、あるいは、高齢化する地域の課題を解決するために、開発しなければならない商品やサービスが数多くあります。言い換えれば、高齢社会が数多くのイノベーションを生む可能性を秘めているということです。ただ、そうした高齢者や地域の多様なニーズに応えるイノベーションを生むには、様々な人からの意見やアイデアが必要なため、特定の企業だけではなく、地域住民、地方自治体、大学などの組織が協働する必要があります。2017年にIOGは、神奈川県鎌倉市の北東部の今泉台(いまいずみだい)という人口5,000人ほどの地区で、住民、企業、鎌倉市役所と協力して「鎌倉リビングラボ」を立ち上げました。リビングラボは、住民が中心となって、生活を改善する商品やサービス、社会の仕組みを創るプラットフォームで、ヨーロッパでは400以上あります。今泉台は、高齢者が約半数を占めていますが、若い人も暮らしやすいまちづくりに取り組んでいます。例えば、若い人が家でも働ける環境づくりのために、オフィス用の家具を手がける企業と協力して、テレワーク用のデスクの開発に携わりました。2019年に発売されたデスクは、とても使い易いと購入者から高い評価を得ています。実は、鎌倉リビングラボは、スウェーデンのリビングラボとの共同研究プログラムとして実施されています。2018年には、来日されたスウェーデン国王夫妻が、その縁で、視察のために憲仁親王妃久子殿下とともに今泉台をご訪問くださり、御案内させていただきました。

世界に先駆けて高齢社会を迎えている日本の取組は世界から注目されています。IOG、豊四季台、今泉台にはアジアや欧米の国々から多くの人が視察に訪れます。日本の高齢者の知識や経験を活かし生み出されるイノベーションは世界にも大きく貢献するでしょう。