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  • 草千里ヶ浜と阿蘇中岳
  • おんだ祭り
  • 中岳火口のライブ映像

December 2020

火山と歩む自然と文化

草千里ヶ浜と阿蘇中岳

熊本県の阿蘇ジオパークでは、火山によって造られた豊かな自然と、火山と長年にわたり共生しながら育くまれてきた人々の暮らしに触れることができる。

中岳火口のライブ映像

火山噴火によってできた大きな凹地をカルデラと言うが、日本の九州のほぼ中央に巨大な阿蘇カルデラが広がる。この一帯では、約27万年前に火山活動が始まり、約9万年前の大噴火によって現在のカルデラが形成された。カルデラは、東西18キロメートル、南北25キロメートルの楕円形を成し、1周100キロメートルを超える外輪山に囲まれている。カルデラの中央部には、今も噴煙が絶えない中岳を含む「阿蘇五岳」がそびえ、周囲には草原や湿原が広がって貴重な動植物が生息する。このほかカルデラ内には、湧水、滝、温泉なども多く、阿蘇は多様なアウトドアアクティビティが楽しめる景勝地として高い人気を集めている。

阿蘇一帯は、1934年には日本政府から国立公園に指定され、現在では「ユネスコ世界ジオパーク」としても認定されている地域である。「阿蘇の大地と人間生活」をテーマとする阿蘇ジオパークには、自然遺産として価値が認められた見所「ジオサイト」が33ヶ所ある。ここでは地球の活動が生み出した地形や地質だけでなく、それらと深く関わりのある人々の暮らしや歴史・文化などを学ぶことができる。

草千里ヶ浜と中岳を臨む場所にある「阿蘇火山博物館」は、1982年の開館以来、現在まで800万人を超える来館者を迎えている。阿蘇ジオパークの拠点となっている博物館は、文化庁から文化観光拠点施設としても認定されている。博物館は、カルデラ誕生から草原と人々の関わり、動植物などの調査・研究、資料の収集や展示、小中高生向けの教育プログラムやトレッキングツアーを実施している。

博物館の目玉の展示の一つが、中岳火口壁に設置されたカメラからのライブ映像である。火口の音と合わせてプロジェクションマッピングで見る映像は、臨場感にあふれている。これは300分の1のサイズの中岳火口の模型に、超高感度カメラが撮影した火口の映像を投影することで、火口の中を覗き込むような体験ができる展示物である。

「私たちの役割はまず、火山活動のこれまでの歴史を通して阿蘇が持つ自然の魅力を伝えていくことです。どうしてこの山はこんな形になったのかなど、お客さんの知的好奇心に応えるようなご案内をしています」と博物館長の池辺伸一郎さんは話す。「阿蘇は火山灰が降り積もった高冷地で、そのままでは耕作には不向きな環境です。しかし、牛の堆肥や草を使った緑肥で土壌を改良してきました。このように、阿蘇の人々が長い間火山と共存してきた独特の文化についても理解を深めていただけるようにしています」

阿蘇で受け継がれてきたのが、日本一の広さを誇る草原での放牧である。阿蘇の牛や馬の放牧は、奈良~平安時代(8世紀~12世紀末)にまでさかのぼると伝えられている。人々は春から秋まで牛馬を放牧、秋には草を刈った。刈った草は、牛や馬の飼料だけではなく、米や野菜を育てるための緑肥として利用された。早春には、草原が森林とならないために低木を除去し、新しい草の芽立ちを助ける野焼きを行う。こうした作業を何世紀にもわたり毎年繰り返し、草原の維持をしながらの農畜産業を発展させてきた。

「火山の神ジオサイト」にある、約2,300年前の創建と伝えられる阿蘇神社は、火山の神を祀っており、この地の人々に代々信仰されている。阿蘇神社では、田植期に行う「おんだ祭」や収穫期に行う「田実祭」など、四季それぞれの農業の営みに合わせて、豊作祈願、収穫感謝の農耕祭事が行われており、これらは国の重要無形民俗文化財に指定されている。

おんだ祭り

阿蘇火山博物館は観光の拠点として、中岳の噴火や2016年4月に発生した熊本地震に関する資料の収集・展示、防災の啓蒙活動にも力を入れている。

近年、熊本県は、熊本地震や2012年と2019年の豪雨などの災害に見舞われているが、着実に復興が進んでいる。2020年8月には、阿蘇を経由して熊本県と隣県の大分県を結ぶJR豊肥本線が4年4ヶ月ぶりに全線再開した。また、同年10月には、主要幹線国道57号のバイパスも完成し、阿蘇がグッと近くなった。さらに、2021年3月には、地震による土砂崩れで崩落した阿蘇大橋に代わる新たな橋が開通する予定である。

今後、阿蘇での車、鉄道、あるいは自転車での移動が更に改善され、火山によって造り出されてきたダイナミックな大自然と、その恵みとともに育まれてきた文化を有する阿蘇ジオパークの魅力を、もっと体感できるようになるだろう。