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  • 顕輔が詠んだ雲間から現れる清らかな月のイメージ
  • 百人一首かるたの読み札(右)と取り札

October 2020

月の光

顕輔が詠んだ雲間から現れる清らかな月のイメージ

「秋風にたなびく雲の絶え間よりもれ出づる月の影のさやけさ」(藤原顕輔(ふじわらのあきすけ)[1090-1155]、『百人一首』79番)

Autumn breezes blow
long trailing clouds.
Through a break,
the moonlight—
so clear, so bright.
—Trans. by Peter MacMillan, One Hundred Poets, One Poem Each

秋は空気が澄み、月の光(和歌では「月の影」と表現)が冴(さ)えわたる季節である。作者・顕輔は、風が吹く秋の夜、雲間に切れ目が生じ、そこからもれてきた月の光が何と清らかですがすがしいことか、と詠(よ)んだ。

翻訳家のピーター・J・マクミランさんによれば、「日本人は古くから月を愛(め)でてきたが、とりわけ愛したのは秋の月であった。この歌では雲間から突然月が現れた喜びと驚きを、体言止めによって表している。この呼吸を英訳では、−(ダッシュ)を用いて表現した。英語圏の文化では月に『さやけさ』(清らかさ)を見出すことはないので新鮮だ。

和歌では、季節の歌のみにとどまらず、恋愛や別れといった様々な主題の中でも共に月を詠み込んだ。日本人のあらゆる心と月とが結びつけられていたのである。また、満月のみならず、朧月(おぼろづき)や三日月、雲に隠れた月のような『不完全な月』をも愛してきたのも、日本文化ならではの特徴だろう。マクミランさんは、更に続けた。 『日出(い)づる国』の名を持つ日本は、むしろ「月の国」ではないかとさえ私には思える」と。

『百人一首』

百人一首かるたの読み札(右)と取り札

中世の歌人・藤原定家(ふじわらのていか又はさだいえ。1162~1241)が、晩年、それまでに詠まれた和歌から、百人の歌人の和歌を、一人一首ずつ選んだ秀歌選『百人一首』は、日本では最もポピュラーな和歌のアンソロジーである。これは、定家が、京都・小倉山の山荘で選んだとされ、「小倉百人一首(おぐらひゃくにんいっしゅ)」とも呼ばれる。この百人一首は、それぞれの和歌を、前半部分(上(かみ)の句。「5・7・5」の部分)を読み上げるための読み札と、後半部分(下(しも)の句。「7・7」の部分)の取り札とに分けて書いたカード状の札で遊ぶ「かるた」となって現代にも伝わっている。百人一首のかるたは、読み札が読まれたら、取り札を取ることを競い合うゲームであり、今日も多くの人々がかるたに興じている。

マクミランさんも『百人一首』に魅せられた多くのなかの一人である。彼は『英語で読む百人一首』 (One Hundred Poets, One Poem Each)を出版し、同時に英語版百人一首かるた『WHACK A WAKA 百人イングリッシュ』を制作している。彼は「百人一首こそが日本人の心の表れ」だと強く信じる思いから、世界でかるた大会を開催しながら、いつかかるたがオリンピック種目になることを願っている。(Highlighting JAPAN 2018年2月号参照)