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  • 「紅葉色」、列樹が詠んだ和歌のイメージ

October 2020

和歌に詠まれた秋の色

「紅葉色」、列樹が詠んだ和歌のイメージ

日本の古典詩歌「和歌」における典型的な主題に、紅葉、そして月の色合いがある。

日本の古典文学である「和歌」は、原則31音で詠(よ)み、「五・七・五・七・七」の五つの句で構成する。最古の歌集「万葉集」は7世紀後半から編さんされたと言われ、天皇から一般庶民に至るまでの和歌を広く収めている。和歌の歴史は1300年以上に及んでいる。

10世紀初頭に成立した「古今和歌集」の序文では、和歌について、「やまとうたは、人の心を種として、よろづの言の葉とぞなれりける」とある。和歌は、様々な題材を自然、即ち日本人が花鳥風月*と呼ぶ自然界のなんらかの姿に託して、人生の喜怒哀楽、恋にまつわる感情の起伏などを詠む。中でも秋を象徴する紅葉や月の微妙に移ろう色合いを詠んだ和歌は多い。「紅葉色」と「月の光」(pp. 10-11)を詠んだ二首を『百人一首』(次ページ参照)から紹介する。

「山川に風のかけたるしがらみは 流れもあへぬ紅葉なりけり」(作者:春道列樹(はるみちのつらき) [?-920] 、『百人一首』32番)

The weir that the wind
has flung across
the mountain brook
is made of autumn’s
richly colored leaves.
—Trans. by Peter MacMillan, One Hundred Poets, One Poem Each

山川(やまがわ)とは、谷川など山あいを流れる川のことで流れが速い。しがらみとは、川の中にくいを打ち渡して木の枝や竹を横に結びつけた柵状のもので、水の流れを緩やかにする。谷川に色あざやかな柵(しがらみ)があると思ったが、実はそれは秋の風が吹き寄せた紅葉だったのか、と詠んだ一首。

ここで紹介する英訳を手掛けたピーター・J・マクミランさんは、この歌の魅力を次のように語る。

「日本人は古(いにしえ)から秋の紅葉の赤と黄色を愛してきた。たとえば百人一首17番歌の『ちはやふる』**は漫画のタイトルにもなって有名だ。紅葉が水を括り染め(くくりぞめ)していると詠み、神代以来これほど美しい風景は見たことがないと表現している。『百人一首』の24番(菅原道真)***も錦のような紅葉を神に捧げると詠んだように、紅葉の美は神を連想させるほどのものなのだ。一方この32番の春道列樹は、紅葉の美しさを驚きと共に表現する。『しがらみ』だと思っていたものが実は美しい紅葉であったことに私たちは気付かされるのである。

『百人一首』の中に紅葉を詠む歌はたくさんあるが、それぞれに魅力的だ。そこで英訳でも“brocade”や“richly colored leaves”など時々言い回しを変えて訳した」

『古今和歌集』のこの歌の詞書(ことばがき。和歌の前書きのこと)には、作者が京都から隣国(近江国、現在の滋賀県)に向かう山道の途中でこの歌を詠んだと記されている。

* 四季折々の、趣ある自然の風物
** 在原業平「ちはやぶる神代も聞かず竜田川からくれなゐに水くくるとは」
*** 菅原道真「このたびは ぬさもとりあへず 手向山 紅葉の錦 神のまにまに」