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  • 「ザ・リッツ・カールトン東京」など、高級ホテルのインテリアにも細尾の西陣織は使われている。
  • 生地に触れると音を奏でる『織ノ響』
  • パリで行われた「感性 kansei-Japan Design Exhibition」で展示された帯

September 2020

京都・西陣織の新しい伝統

パリで行われた「感性 kansei-Japan Design Exhibition」で展示された帯

日本を代表する織物「西陣織」で有名な京都の西陣は、1200年以上にわたり織物の伝統が受け継がれてきた。その西陣で300年以上の歴史を持つ老舗の織物屋が、新たな技術や多様なアーティストとのコラボレーションによって、これまでにない西陣織を生み出し、国内外から大きな注目を集めている。

生地に触れると音を奏でる『織ノ響』

細い路地に伝統的な、間口が狭く奥行が長い町家造りが立ち並ぶ京都、西陣。この地区で伝統的に生産されてきた絹織物は「西陣織」と呼ばれ、色彩豊かな緻密な文様を織で表現ができることが特徴である。

「西陣織は、千年以上都となっていた京都で、天皇家や貴族、寺社仏閣などからの注文に応えながら、美しさを追求してきた織物です」と1688年の創業以来、西陣織の製造、問屋業を営む株式会社細尾の12代目となる代表取締役社長、細尾真孝さんは語る。およそ5キロメートル圏内ほどの地区内には、織り、染め、糸作り、西陣織特有の金銀の箔職人が集まっており、織物が完成するまでの20以上の工程の高度な分業が、約1200年もの間受け継がれてきた。

細尾も、伝統的な西陣織を今なお織り続けている一方、この10年ほどで、世界を驚かせるような織物を数々発表し、西陣織の可能性を広げている。

「ザ・リッツ・カールトン東京」など、高級ホテルのインテリアにも細尾の西陣織は使われている。

きっかけとなったのは、2008年、パリで行われた「感性 kansei-Japan Design Exhibition-」への出展だった。この展示会で、アメリカ人建築家のピーター・マリノ氏が細尾の帯を目にして、その織りの技術の高さと華麗な装飾性に感動したのである。そして、インテリア素材としてのポテンシャルを見い出し、細尾に、室内インテリア用のテキスタイルを作ってほしいという依頼をした。西陣織の織幅は、伝統的に通常32センチメートルである。しかし、その幅ではインテリアとしては扱いづらく、もっと広い幅で織る必要があった。これに応えるため細尾は、新たに織機を開発し、150センチメートルという世界のテキスタイルの標準幅で織ることを試みた。こうして出来上がった新しい西陣織の生地は、ピーター・マリノ氏の手を通じて、クリスチャン・ディオールのパリの旗艦店を始め、世界100都市以上の店舗やホテルで、新たに壁紙やカーテン、ソファの張り地など装飾に用いられることとなった。

150センチメートル幅に対応する新しい織機では、約9000本の縦糸を張り、幾層もの階層を重ねて立体的なテキスタイルが織り上げられる。様々な素材を織り込むことが可能で、織り方によって光の捉え方や透け感、立体感を操ることができる。この技術を活かして、細尾は様々なアーティストや企業とのコラボレーションに取り組んでいる。例えば、アメリカ人現代美術家のテレジータ・フェルナンデス氏とのコラボレーションでは、彼女の作品『Nishijin Sky』を約1年かけて織り上げた。夏物の着物に使われる「紗」(しゃ)と呼ばれる織りの技術を応用し、織り込む角度を調整することによって、片面だけ透けて見える織りを実現し、作品のコンセプトである“二面性”を美しく表現した。

また、音響機器も手掛けるパナソニック株式会社と組み、西陣織と最先端テクノロジーを融合させたスピーカー『織ノ響』を作成した。これは、スピーカーとしての機能のほかに、織物の生地に手を触れると、生地に織り込まれた通電性のある金属の糸が媒介となってスピーカーが作動し、音を奏でるというもので、「ミラノサローネ2017」では、ベストストーリーテリング賞を受賞した。

「様々な分野と協業し、最先端の技術も積極的に取り入れることで伝統が進化する。西陣の長い歴史を振り返れば、先人たちもそうした挑戦を続けてきたのではないでしょうか」と細尾さんは語る。

これまで西陣織と言えば、着物が中心であったが、同社が2019年に立ち上げたオリジナルブランド「HOSOO」には、こうした“新しい伝統”の形の製品が展開されている。オリジナルのテキスタイルを用いた、住宅、事務所などで使うソファやカーテンを始め、ポーチなどの小物類まで、現代の日常生活全般に西陣織の用途を広げた。そして、それられには、細尾の意図のとおり、1200年積み上げてきた雅びやかな京都の美意識が息づいている。