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  • おもちゃを修理する、東京おもちゃ美術館に設けられた「おもちゃ病院」のドクターたち
  • 修理道具を詰め込んだスーツケースを前にポーズをとる日本おもちゃ病院協会会長の三浦康夫さん
  • 修理の依頼が多い鉄道のおもちゃ
  • 協会オリジナルのおもちゃ修理専用の工具

August 2020

おもちゃの病院

おもちゃを修理する、東京おもちゃ美術館に設けられた「おもちゃ病院」のドクターたち

ボランティアであるスタッフが、壊れたおもちゃを修理する通称「おもちゃ病院」が全国にある。そこでは、おもちゃに再び生命が吹き込まれ、子供たちだけではなく大人までをも笑顔にしている。

修理道具を詰め込んだスーツケースを前にポーズをとる日本おもちゃ病院協会会長の三浦康夫さん

日本おもちゃ病院協会は、壊れたおもちゃを原則無料で修理するボランティアからなる団体である。1996年に全国組織化された協会には、現在、児童館、図書館、おもちゃ屋などの施設に設けられた約650の「おもちゃ病院」が所属しており、約1,700人の「ドクター」が修理に当たっている。

「おもちゃ修理を専門とするボランティアが組織化されているような国は、世界でも珍しいのではないでしょうか。『物を大切にする』という国民性がその背景にはあるのかもしれません」と協会の会長を務める三浦康夫さんは話す。

ドクターは、高校生から80歳までと年齢層が幅広いが、中でも、定年退職後に趣味として取り組む60歳代の男性が多い。ドクターになるためには、協会が各地で開催する1日から3日間のドクター養成講座に参加し、おもちゃ修理に必要な知識や方法を実践的に学ぶ。例えば、工具、測定器、接着剤の使い方、故障の診断方法、故障に応じた修理方法などである。

「壊れたおもちゃが動くと、ドクターの誰もが大きな達成感を味わいます。しかも、お客さんから感謝されるので、おもちゃを直すのが、どんどんと面白くなっていくのです」と三浦さんは話す。

病院によっては、1日の修理件数が約50件に上る所もある。持ち込まれるおもちゃは、プラスチック製のレールの上を走る鉄道のおもちゃと、プラスチック製の着せ替え人形が多い。こうしたおもちゃは、修理方法が確立されているので、大概は1〜2時間で修理できる。ただ、部品を取り寄せる必要があったり、修理に時間がかかる場合は、数日お預かりする、言わば「入院」となる。おもちゃの多くが海外製である上に、近年はドローンのようなハイテクおもちゃも増えているため、修理に手間取ることもあるが、遊べるように修理できる「完治率」は90%以上に上る。

修理の依頼が多い鉄道のおもちゃ

プラスチック部品が割れたおもちゃの修理では、ドクターは単に接着剤でつなぎ合わせるような修理はしない。壊れた箇所、「傷口」周辺に小さな穴を幾つかあけ、ステンレス製の細いワイヤーを通し、しっかりと「縫合」するのである。その上で傷口に接着剤を塗り、補強する。

「接着剤はあくまでも補助的に使います。割れた部分に接着剤を塗っただけでは、また簡単に壊れてしまいます」と三浦さんは話す。

おもちゃ病院を訪れる人は、「自分の孫に遊ばせたい」と自分が子供の頃に買ったおもちゃを持ってくる高齢者など、皆、壊れてしまったおもちゃに深い愛着を持っている。エンジニアとして自動車メーカーで働いていた三浦さんは、20年以上前にドクターとなり、数多くのおもちゃを修理してきたが、修理に持ち込まれるのは子供のおもちゃだけではないという。三浦さんにとって特に思い出深い修理は、ある高齢の女性が持ち込んだオルゴールである。

協会オリジナルのおもちゃ修理専用の工具

「亡くなった旦那さんからのプレゼントだったそうです。修理したオルゴールが再び動き出すと、女性は涙を流して喜んでくれました。その時は、私も思わず涙ぐんでしまいました」と三浦さんは話す。

持ち込まれるおもちゃに思い入れがあるからこそ、ドクターたちは簡単に修理を諦めない。修理用の工具を特別に作ったり、インターネットで部品を探したり、ドクター同士で互いに各自が修理するおもちゃのために知恵を出し合ったりなど、様々な方法で完治を目指す。

「大切なおもちゃを直してもらいたいというニーズは高いです。おもちゃ病院に行けば、必ず直してくれるとお客さんに思ってもらえるように、全国のドクターの技術レベルを更に向上させていくことと、使いやすい必要工具をメーカーに作製してもらい会員に送る事業もしています」と三浦さんは話す。

おもちゃ病院で再び生命を吹き込まれたおもちゃは、あるものは元の持ち主のもとに戻り、あるものは新しい持ち主に引き継がれ、子どもから大人までモノを大切にする心を育む一助になっている。