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April 2020

いけばなが広げる可能性

ルーマニア出身のニコレッタ・オプリシャンさんは、様々な場でいけばなを制作し、その作品は高い評価を受けている。

「いけばな」は、花器に花や葉、枝もの、時に植物以外のものも取り合わせ、空間を構成する日本の伝統文化である。仏教の供花を由来とし、14世紀中ごろに僧侶によって確立されたと言われる華道は、様式や技法の違いから多数の流派が生まれていった。その中でも、1927年に勅使河原蒼風が創始し、斬新で自由な作風を特徴とする草月流は、現代のいけばなを代表する流派の一つとなっている。

ルーマニア出身のニコレッタ・オプリシャンさんは、草月流の師範免状を持ち、東京を拠点に、華道家として活躍している。ルーマニアのブカレスト大学で日本語と英語の言語学・学士号を取得した後、オプリシャンさんは東京でさらにその道を追究することにし学習院女子大学の大学院で日本語を研究した。その時、草月流の拠点、東京・赤坂の草月会館に生けられたいけばなを見て大きな感銘を受けたと言う。卒業後、彼女はさらに、レスター大学・コミュニケーション学・修士号を取得した。そこで得たスキルは、いけばなの時、つまり、アートの力で感情を表現する時に非常に役立ったと言う。

オプリシャンさんは、「私の家ではいつもお祖母さんが花を飾っていましたが、いけばなは、色とりどりの花を用いて整った形をつくる西洋のフラワーアレンジメントとは異なるものです。たった一輪の花、一本の枝でも力強い表現になる。新しい作品を生み出すために歴史的価値のある花器を用いるのも、新鮮に感じました」と語る。

その後、家族と世界中を巡り、様々な国で暮らした後、2007年に再来日し、オプリシャンさんは念願の草月流に入門した。「お稽古中は、花と向き合う自分だけに集中します。その緊張感のある静寂の時間がとても好きでした」とオプリシャンさんは話す。

入門後間もなくから才能を発揮し、オプリシャンさんは約2年で師範に昇格した。そして、華道家として活動していくため雅号を「香清」と名乗った。これは「香り」と、ピュアの意の「清」を組み合わせたもので、オプリシャンさんのいけばなへの思いが込められている。

オプリシャンさんの活躍の場は広い。イベント会場や商業施設、コンサートステージなどでのいけばなでは、高さが2メートルを超える大作を手掛けることもある。2月のバレンタインデーの時期のウィンドウディスプレイでは、硬さとしなやかさを持ち合わせる竹の特性を活かし、大きなハート形を作り、季節の花々を添えたいけばなを制作した。また、秋には、あるホテルのロビーに紅葉したドウダンツツジに流線形の枝を沿わせた作品を生け、来場者から「風の音が聞こえるようだ」と称賛された。「生ける時間は2時間程度でも、準備にはイメージスケッチを描くことから始めて2週間以上かけます。いつも、それぞれのシーンにふさわしく、見た人々の記憶に残ることを心掛けています」とオプリシャンさんは語る。

しかし、生花を用いるいけばなは、およそ1週間で寿命を終える。2015年に会社「5SENSES」を設立すると、オプリシャンさんは、もっと長く作品を残すため、自分のいけばな作品をモチーフにあしらったテキスタイルのデザイン作りを始めた。また、いけばなの制作中に漂う花の香りや枝葉を切った時に発する香りにインスピレーションを受けた香水も開発した。これらの商品はオンラインショップで販売しているが、オプリシャンさんは、こうした経験を積み上げて、将来はいけばなの魅力を発信する自らのブランドショップを持ちたいと考えている。

「毎日が忙しく過ぎていく今の時代だからこそ、いけばなを通して自然の大切さを伝えたい」とオプリシャンさんはその抱負を語った。