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April 2020

「和ハーブ」の恵み

和ハーブのセレクション

日本では、「和ハーブ」と呼ばれる植物が人々の暮らしの様々な場面で使われ、人々の生活を支えている。

ヨーロッパや東南アジアなどでは、ミントやローズマリー、パセリ、パクチーなどのハーブ文化があり、料理の香りづけやアロマテラピーなどに古くから利用されている。日本においても古くから伝わるハーブ/スパイス文化があり、代表的なものとしてはシソ、サンショウ、ショウガ、あるいは日本独自のミツバ、ワサビなどがある。またヨーロッパなどと同様に、ミント(和名=ハッカ)、パセリ(和名=シャク)、エルダー(和名=ニワトコ)なども有用される。

サンショウ(Japanese pepper)

一般社団法人和ハーブ協会は、江戸時代以前より広く日本に自生あるいは栽培されてきた有用植物を「和ハーブ」と定義しているが、同協会理事長の古谷暢基さんは、和ハーブの魅力は料理活用にとどまらないと言う。「国土が南北に長く高低差の多い地形の日本は、植生が多種多様に富んでいます。先人たちはそのたくさんの植物から様々な恵みを受けてきました。日本の伝統的な暮らしをみると、いかに衣食住の全てが植物で彩られていたか、よく分かります」

木造の日本家屋は、障子などの建具にコウゾやミツマタの繊維から作る和紙を用い、畳は吸湿放湿性に優れ香りも良いイグサが使われる。籠などの生活雑貨には、稲わらやタケ、ヤマブドウなどのつるを利用した。麻の繊維からは布が織られ、それらは「ジャパン・ブルー」と称されるアイを始め、ベニバナ、アカネ、シソなどの植物で色とりどりに染められた。これらの色素には、抗菌作用や防虫効果があるとされるものが多い。

「日本は世界一の長寿国で知られますが、その秘密が日本の土壌に育った和ハーブを昔から食事や薬草として摂取していることにあると私は考えています。和ハーブには幾つもの有用成分が含まれていて、花、葉、茎、根、果実、樹皮と全草を様々な用途に利用します。その成分を活用する文化はすなわち“それぞれの土地に伝わる知恵”であり、現代の日本人の生活にもその知恵を復活させ、活かすべきかと思います」と古谷さんは話す。

例えば、全国には「包み葉文化」ともいうべき、葉の成分を活用した伝統食文化が存在する。例えば、カキノキやクマザサの葉で鮨を巻いたもの、サクラ、カシワ、ミョウガ、ゲットウなどの葉で餅菓子を巻いたものなどである。これらの葉には防腐効果があるだけでなく、葉の香りで風味が増す効果もある。また、入浴にも和ハーブは取り入れられていて、12月の「冬至」と呼ばれる昼の時間が最も短い日には、血行を良くし身体を温める効果のあるユズ、子供の健やかな成長を祈る5月5日の「端午の節句」には香気があり健康にも良いと言われるショウブというように、各家庭で季節ごとの和ハーブを浴槽に浮かべる習慣が根付いている。

ユズ

和ハーブを薬そのものとして用いた歴史も長い。古谷さんによれば「日本5大和薬」と呼ばれるゲンノショウコ、ドクダミ、センブリ、カキドオシ、タラノキは、その代表で、胃腸薬や解毒剤に使われてきた。ヨモギや、ビワの葉を使ったお茶は、心身をリラックスさせる効果があるとして今も親しまれている。

ドクダミ(Chameleon plant)
センブリ(Swertia)

「近頃は数種類の和ハーブをミックスしたお茶を飲むといった楽しみ方もされるようになりました。和ハーブの多くは身近にある植物ですが、宝物のような存在と言えます。伝統に学びながらも、今の生活に合うように取り入れれば、私たちの毎日はもっと豊かなものになると思います」と古谷さんは語る。

春の七草がゆ