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April 2020

動物愛がつなぐ日本とウガンダ共和国

ウガンダ野生生物保全教育センター(UWEC)が学校で行った動物の人形を用いたアウトリーチ・プログラム

横浜市の動物園が、アフリカのウガンダの動物園への支援を通じて、同国の野生生物の保全に貢献している。

豊かな自然に恵まれ、アフリカ大陸の中でも最多の動物種が生息すると言われる東アフリカの内陸国のウガンダ共和国は、近年、森林伐採や密猟などが原因で多くの野生生物が脅威にさらされている。

こうした中、野生生物保全や保全教育などの活動を行っているのが、ビクトリア湖畔にあるウガンダ野生生物保全教育センター(UWEC)である。UWECは29ヘクタールの敷地にキリン、ゾウ、チンパンジーなど約50種の動物を飼育展示し、年間約30万人が来園する動物園であるとともに、野生動物の飼育下繁殖、保護・治療、市民への保全教育などを行う拠点でもある。このUWECを支援するため、公益財団法人横浜市緑の協会は、2008年から2017年まで、国際協力機構(JICA)の草の根技術協力事業として「ウガンダ野生生物保全事業」を行った。

プロジェクトのきっかけになったのが、2008年に横浜で開催された第4回アフリカ開発会議(TICAD IV)である。横浜市が会議開催に先立ち、アフリカへの国際協力を検討する中で、野生動物に関するプロジェクトが浮上した。

「ちょうどその頃、当協会の職員がJICAの青年海外協力隊員として、ウガンダ西部のカリンズ森林でエコツアーを立ち上げる活動をしていたのです。その職員がウガンダにて活動を開始していたこともあり、横浜の動物園にとってウガンダは身近な国の一つとなっていました。また、UWECはアフリカ大陸にある動物園の中で先進的な動物園であるため、市職員が現地へ調査に行った結果、横浜の動物園が持つ専門的な技術をUWECに伝えることで、現地の野生生物保全に貢献できることが分かり、プロジェクトのスタートにつながったのです」と、2011年からプロジェクトに参画し、プロジェクトマネージャーも務めた同協会の長倉かすみさんは話す。

プロジェクトは、横浜市緑の協会が管理運営する3つの動物園(よこはま動物園、野毛山動物園、金沢動物園)と、横浜市の研究施設である横浜市繁殖センターが中心となって行われた。具体的には、「獣医」、「飼育」、「教育」、「動物園管理」の分野におけるウガンダからの研修員の受け入れ、横浜からの専門家の派遣、必要な資材の提供などを行った。

神奈川県横浜市の野毛山動物園におけるダチョウの人工孵化を見る研修員

例えば、獣医分野では、飼育や保護をしている動物が健康的に管理されるように、骨折手術に用いるサージカルドリル、鳥類の性別を判別する内視鏡、歯の治療を行う超音波スケーラーなどの医療資材を提供し、日本人専門家による現地スタッフへの研修を実施している。

ウガンダ野生生物保全教育センター(UWEC)における動物医療研修

動物園管理部門では、UWECのマネージメント強化を支援した。その一環として、2014年から、UWECの園長や管理職を横浜の動物園に招き、動物園のマネージメントを学ぶ研修プログラムを実施した。

「朝はスタッフを集めて朝礼を行い、その日やるべき仕事を全員で共有する、園内で何か起こった時にはスタッフが無線で連絡を取り合って対処するなどのことを研修で紹介しました。また、横浜では飼育担当と教育担当が対等な立場で連携して企画していることを横浜での滞在中に学びました。早速、園長がそうした活動をUWECに取り入れると、飼育担当と教育担当の垣根を越えた人事交流・情報共有が活発となり、現場のコミュニケーションが円滑になったのです」と長倉さんは話す。

こうした地道な協力関係が実を結び、UWECのスタッフからもアイデアが提案されるようになった。その一つが「子ども動物園」である。

「日本の動物園から発想を得て、スタッフが『ウガンダの子どもたちが動物と触れ合いながら学べる場所を作りたい』と考えたのが始まりでした。2017年の一部開園時に写真が送られてきたのですが、子供たちとUWECの職員が本当にうれしそうで感無量でした」

ウガンダ野生生物保全教育センター(UWEC)の「子ども動物園」

こうしたUWECの努力が評価され、2015年にはUWECは政府の正式な機関として認定され、安定的な運営が保証されるようになった。また、「ウガンダにおけるベスト野生動物保全施設賞」、「アフリカ動物園水族館協会会長賞」など様々な賞を受賞している。

「UWECが持続的にその役割を果たしていくために、ウガンダの人たちが、ウガンダに適したやり方で自ら課題を発見し、解決していくための人材を育成できたことが、このプロジェクトの成果と言えます。私たちも多くのことを学びました。引き続き、プロジェクトを通じて培われた経験を、野生生物保全に役立てていきたいと考えています」