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April 2020

水族館を救ったクラゲ

ミズクラゲが乱舞するクラゲドリームシアター

山形県の鶴岡市立加茂水族館は、世界有数のクラゲの展示種数を誇る。

山形県庄内地方南部、日本海を望む海岸沿いに立地する鶴岡市立加茂水族館。その前身となるのは1930年オープンの「山形県水族館」で、開館以来、地域の文化施設としての役割を果たし、加茂水族館として新築移転後の1960年代後半には年間入館者数は20万人以上にのぼった。しかし、レジャーの多様化もあり、1990年代後半には10万人以下に落ち込み、同館は、コツメカワウソやラッコなど人気のある動物を展示したが思うような成果は上がらなかった。

そんな時、特別企画として展示したサンゴ礁に付着していたサカサクラゲのポリプ(固着生活期)から偶然、稚クラゲが発生し、これを育てて大きくしたものを展示したところ、水槽をふわりふわりと泳ぐ様子が好評を得たことから、クラゲの展示に力を入れ始めた。

「人気に弾みがついたのは、2000年にクラゲの展示種数が15種類と日本一になったことを宣伝するために開催した『クラゲを食べる会』でした。クラゲの寿司やしゃぶしゃぶなどのユニークな料理を提供したところ話題となり、全国に知られるようになりました」と加茂水族館総務課の渡辺葉平さんは話す。その後も、館内のレストランでクラゲ入りのラーメンやアイスクリーム、クラゲの刺身の定食などの提供を始めたところ大人気となった。

加茂水族館の前に広がる庄内浜では1年を通して80種以上のクラゲが採取できるため、 初期の展示はミズクラゲやアカクラゲなど地元産のクラゲが中心だった。しかし、クラゲの寿命は長くても1年で、常時展示するには安定した繁殖が必要だった。

「クラゲの繁殖にはわからないことも多く、一つ一つの種類について試行錯誤を繰り 返しながら最適の繁殖方法を開発してきました。展示用の水槽も、クラゲの種類に合った大きさや水流が必要なので、改良を重ねました」と渡辺さんは話す。

加茂水族館は2003年に「鶴岡市クラゲ研究所」を開設し、スナイロクラゲ(ビゼンクラゲ)を始め、キタミズクラゲやオキクラゲなど多種のクラゲの繁殖に成功するなど、多くの成果を上げた。現在では、こうした繁殖や飼育のノウハウを学びに、フランスのパリ水族館を始めとする世界各地の水族館や研究機関から研究生が訪れるようになった。

2014年には、隣接地に新水族館を建設し、クラゲ展示室は2倍以上の広さにリニューアルされ、常時60種類以上のクラゲが展示されるようになった。その最大の見所は直径 5メートルという世界最大級の円形水槽に、約10,000匹のミズクラゲが乱舞する「クラゲドリームシアター」である。冬季には虹色にライトアップされ、幻想的な雰囲気を 醸し出す。

このほか、水槽の前で一夜を過ごす宿泊イベント、「クラゲドリームシアター」での音楽会など、クラゲファンを増やす催しも行われている。同館は今や、国内外から年間約50万人が来館する山形県を代表する観光スポットの一つとなっている。

クラゲドリームシアター前でのコンサート

「新しいクラゲの入手や他の水族館からの寄贈があります。繁殖の状況、季節によって、展示の種類も変わり、また年ごとに水槽のリニューアルも行われますから、ここではいつも新しいクラゲに出会えます」と渡辺さんは話す。

ゆったりと水中を漂うクラゲを見ていると心もほぐれ、優しい気持ちになれる。