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March 2020

地域の力で揚がる大凧

300年の歴史を持つ新潟県新潟市の「白根大凧合戦」。住民の作る和紙製の大凧同士が白熱の戦いを繰り広げる。

毎年6月上旬、新潟市南区では、1本の川を挟んで両岸の人々が東西両軍に分かれ、大凧を使って戦う勇壮な祭りが開催される。5日間にわたる祭りの期間中に20万人以上の見物客を集める白根大凧合戦である。

舞台となるのは南区を南北に流れる、川幅80メートルほどの中ノ口川である。祭りでは、東軍(新潟市南区白根地区)と西軍(同西白根地区)のメンバーがそれぞれ、縦7メートル、横5メートルの大凧に結び付けられた「元綱」と呼ばれる太い綱を、川沿いを走りながら引き、川の上空に浮かぶように凧を揚げる。そして、互いの凧を空中で絡ませ、川の中へと落とす。川の流れを利用して元綱をしっかり絡ませた後、両岸の人々が総出となっての綱引きを行う。勝負は相手の元綱を切った方が勝ちとなる。制限時間のなかった時代には白熱の綱引きが4時間経過しても決着せず、ついには日没で引き分けになったこともあった。

「祭りの起源については諸説ありますが、江戸時代、白根側の人が揚げた凧が対岸の西白根側に落ちて田畑を荒らしたため、怒った西白根側の人が仕返しにわざと白根側に凧を落としたのが始まりだと言われています」と白根凧合戦協会の事務局長を務める阿部隆一さんは話す。「起源が何であれ、これまで祭りが続いてきた一番の理由は、凧が空に舞い上がれば誰もが晴れ晴れとした気分になれるからだと思います。低湿地が広がる新潟平野ではかつて、水害で家や田畑が繰り返し被害を受けていました。それだけに年に一度、川を挟んで盛大に行われる祭りが何よりも楽しい催しだったのでしょう」

合戦に使われる大凧は、竹を縦横に組み合わせた骨組みに和紙を張り合わせて作られる。大凧を作るには強さと軽さを併せ持つ和紙が不可欠で、今でこそロール巻きにした長い和紙を用いるが、以前は縦46センチ、横32センチの小さな和紙を324枚も貼り合わせて作っていた。

「パルプから作る現代の紙には繊維の方向性、いわゆる“目なり”があるため、繊維に沿って力がかかると簡単に切れてしまいます。ところがクワ科の植物であるコウゾの繊維が複雑に絡み合っている和紙には“目なり”がありません。どんな向きの力が加わっても破れにくいため、強い風の力を受け止めて舞い上がる大凧を作るには最高の素材なのです」と阿部さんは言う。

現在、白根の大凧合戦には町内会ごとに東軍6組、西軍7組が参加していて、各組それぞれ30名から50名が1年がかりで25~30枚の大凧を製作する。阿部さんによると白根の大凧の最大の特徴は、竹の切り出しから、40キログラムもの国産の麻でよりあげる太さ2.5センチメートル、長さ130メートルの元綱作りまで、全てを組のメンバーが手作りで行っていることだ、と言う。凧に描かれる武者、蝶、魚などをモチーフにした色鮮やかな絵も手書きである。半年以上にわたるこうした作業を通じて、住民の絆は深まっていく。

白根地区には凧作りの名人がそろっており、1980年には、縦19メートル、横14メートルという巨大凧を製作し、揚げることにも成功、当時、世界最大の凧としてギネスブックに認定されている。

「地域の少子高齢化が進んでおり、技術の伝承が今後の課題です。東西13組の中には後継者や人手が足りない所もあるので、私たちは白根地区以外や外国の方の参加も大歓迎しています。祭りを間近に控えた4月の天気の良い週末には、小学校の校庭いっぱいに大凧を並べ、一斉に色塗りの作業を行います。こうした製作過程にも多くの方に参加していただき、祭りの当日だけではなく、白根の大凧を楽しんでいただけると嬉しいです」と阿部さんは語る。