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February 2020

超小型衛星を社会インフラに

日本のベンチャー企業が超小型衛星を活用したビジネスを展開し、将来的に世界の環境、農業、インフラなどの分野で貢献すべく奮闘している。

超小型商用衛星の開発に取り組むベンチャー企業「株式会社アクセルスペース」は、中村友哉さんら3名によって2008年に創業された。起業のきっかけは、中村さんが大学時代、重さ約1キロ、10センチ四方の超小型衛星「キューブサット」を開発するプロジェクトに参加したことである。キューブサットは2003年に打ち上げられ、地球を周回する軌道上から地球の撮影に成功した。中村さんはその後も、在学中に3つの超小型衛星プロジェクトに関わり、衛星開発への情熱を更に高めていった。

「学生ではありましたがエンジニアの卵として、自分が作ったものが宇宙に行って設計どおりに動いたという感動に魅了されたのです。同時に、『超小型衛星の技術を使って世の中の役に立つものを作りたい』という思いも湧き上がってきました」と中村さんは話す。

2013年には、北極海域の海氷の観測を目的とし、光学カメラを搭載した超小型衛星「WNISAT-1」(重量10キロ)を開発し、打ち上げに成功、民間企業が所有する世界初の商用超小型衛星となった。2014年には、地上にある約6.7メートルの物体を識別できる光学カメラを搭載した「ほどよし1号機」(重量60キロ)を打ち上げ、これまでに4,000枚以上の画像を撮影している。2017年には「WNISAT-1」の後継機として「WNISAT-1R」(重量43キロ)を打ち上げた。

そして、同社が現在取り組むのが、10機以上の次世代型超小型地球観測衛星「GRUS」(各重量100キロ)で構成される地球観測網「AxelGlobe」の構築である。GRUSは地上にある2.5メートルの物体を識別する能力を持つ。

「これまでは、衛星画像は、価格が高いだけでなく、希望したタイミングで欲しいエリアの画像が入手できないという課題がありました。そこで、低コストの超小型衛星を軌道上に数十基配置することにより、高い頻度でタイムリーに観測できるシステムの構築を目指しています」と中村さんは話す。

既に2018年には最初のGRUSを打ち上げ、2019年5月から、撮影した画像を提供するサービスをスタートした。2020年中ごろには更に4機の衛星を打ち上げることが決定しており、2022年には10機以上で構成される衛星ネットワークを目指す。

「2020年の打ち上げによって、合計5機による観測体制が実現すると、地球における殆どの地表をほぼ毎日撮影することが可能になります。これにより、高頻度観測を必要とする用途の実証を、実際のデータを使って進めることができるようになります」と中村さんは話す。

撮影した画像は、農作物の生育状況の監視、森林の違法伐採の早期発見、インフラのモニタリングなどの用途に考えられているが、中村さんによれば、そうした従来の利用事例に加え、これまで考えたこともなかったような用途で画像を使いたいという要望が世界各地から寄せられているという。

「AxelGlobeのサービスを始めることで、顧客側が活用法を見つけてくれるという大きなメリットが得られています。私たちは、そうした顧客のニーズをリアルタイムでつかみながら、衛星の開発にフィードバックしていきます。また、今後は、過去に蓄積されたデータとリアルタイムデータを比較することによって、現在どんな変化が起こっているかを把握できると同時に、これから何が起こるかを予測できるようになるでしょう。超小型衛星を、新たな社会インフラとして定着させていきたいです」と、中村さんは瞳を輝かせながら語った。