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Highlighting JAPAN

水路でエネルギーを生み出す

低コストの再生可能エネルギーとして、既存の水路を流れる水の力を利用して電力を作る、小型の水力発電装置が注目されている。

水資源に恵まれた日本では、明治時代から各地で水力発電所の建設が始まり、日本の近代化を支える重要なエネルギー源となった。水力発電は、比較的、一日の発電量の変動が少なく、エネルギー変換効率が高いため、電力を安定して供給できる再生可能エネルギーである。しかも、発電時にはほとんど二酸化炭素を排出しない。

水力発電所には、大規模なダム建設を伴うことが多い。しかし近年、農業用水路など既存の水路を流れる水の力をそのまま利用する小水力発電に注目が集まっている。

農林水産省によると、日本を流れる農業用水路の総延長は、およそ地球10周分 に相当する約40万キロに上る。この他にも、小さな河川、上下水道、工業用水など小水力発電に適した場所は日本全国で1万か所以上と推計される。このような、まだ使われていないエネルギー資源を活用しようと、NTN株式会社が開発したのが「NTNマイクロ水車」(以下、マイクロ水車)である。

マイクロ水車の特長について、同社の自然エネルギー商品事業部の技術部長・勝又龍介さんはこう語る。

「一般的な小水力発電では、水をせき止めて作った水位の落差を利用して発電します。そのためには、上流側で流水をせき止める必要があり、多額の工事費がかかります。その点、マイクロ水車は落差工事の必要がなく、マイクロ水車を水路に設置するだけで発電することができるため、低コストでの導入が可能です」

マイクロ水車は、流水によって水車翼(プロペラ)を回すことで発電機を動かし、発電する。翼径は60 センチ 、90 センチ 、130センチの3種類がある。水路にはりをかけ、そこに発電機や水車翼を組み込んだ装置を取り付ける。翼径が90センチのもので重量は170キロほどであり、移動式クレーン車1台と3人の作業者で、1時間程度で設置できる。装置を取り付けるのに十分な水路の幅、水深、流量があれば、基本的にはどのような水路でも発電可能である。

「先端部分が広がった独自の形状によって、水車翼の先端部に水の力を集め、高効率に発電することができます。また、水車翼の先端部を内側に折り曲げたウイングレットという形状を採用することにより、先端部で発生する渦を抑制してエネルギーロスを低減します」と勝又さんは話す。

マイクロ水車を水路に横、あるいは縦に複数台並べて配置すれば、設置した台数に応じて発電量を増やすこともできる。

勝又さんによれば、秒速2メートルの流れがある場合、翼径90センチの水車で1日当たり24キロワットを発電できると言う。これは、一般家庭2軒分の1日当たりの使用電力量に相当する。

マイクロ水車は今後、ポンプ、街灯、温室などの農家の自家用電源、工場や事務所のバックアップ電源など、地域で使う様々な電源として活用が考えられている。

「今後は、国内のみならず海外でも積極的に普及を図ります。現在、タイ、ミャンマー、インド、カンボジアなど、米作りが盛んなアジア各国からも数多くの問い合わせをいただいています。今後も製品改良を続け、世界中に小水力発電を普及させていきたいです」と勝又さんは話す。

各地域に小水力発電が広がれば、発電所で作られた電気を、遠く離れた地域に送電する際に生じる「送電ロス」を削減できる。気候変動対策の重要性が増す中、マイクロ水車が、再生可能エネルギーの地産地消を促進し、二酸化炭素排出削減に貢献することが期待されている。