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Highlighting JAPAN

AIで問診を効率化

AIが医師に代わって問診を行うサービスが始まっている。医師の作業負担が軽減され、より患者と向き合うことができると期待されている。

多くの医療機関が抱える問題に医師の長時間労働や患者の長い待ち時間がある。この原因の一つに、非効率なカルテ管理があると言われている。待合室で患者が手書きで記入した問診票の内容を、診察時に医師が口頭で確認して診察を行った後、その結果を再度電子カルテに入力している。

こうした現状について、Ubie株式会社共同代表取締役で、現役の医師でもある阿部吉倫さんは「医師が、電子カルテ入力などの事務作業に忙殺されてしまうため、本来業務である診察に注力できない」と指摘する。この問題を解決するのが、同社が開発した『AI問診Ubie』(以下、Ubie)である。

Ubieは、患者がタブレット端末に入力した情報を、適切な専門用語に置き換え、医師のパソコンに表示するソフトウエアである。患者が診察までの待ち時間に年齢、性別、症状を入力すると、約3500種類の質問データからAIが最適項目を選び出し、タブレット画面に20個前後の質問を表示する。患者は提示される項目を選択し質問に答える。この問診に必要な時間は3分ほどである。患者が入力した回答は医療用語を用いた文章として、医師のパソコン上に表示される。

Ubieは、約5万件の論文データを学習することで、患者一人一人に合わせて問診内容を最適化するアルゴリズムを実現した。患者全員に同じ質問をする従来の問診表とは異なり、患者ごとに過不足のない情報が得られるため、医師の問診時間を平均で、従来の約10分から約3.5分に短縮することができる。現在、100以上の病院で導入されており、病院からは、「問診にかかる時間が短縮できることで、患者とのコミュニケーションに多くの時間を取れるようになった」などの感想が寄せられている。

「Ubieを導入している医療機関では、患者が診察室に入ってきた時点で、医師のパソコン画面に病名の候補が表示されています。そのため、医師はスムーズに治療方針を決定することができます。現在は1,100以上の病名の中から、疑いのある病名を高い精度で推測することが可能です」と阿部さんは言う。

また、受付で薬の服用履歴や既往症、アレルギーなど、医療関係者に必要な情報を記載する「お薬手帳」や「他の医療機関からの紹介状」をタブレット端末で撮影すると、その内容が医師のパソコン画面に表示されるシステムも構築した。さらに、電子カルテを開発する企業と連携して、問診内容などを電子カルテに自動的に反映できる仕組みを構築している。

阿部さんが「Ubie」の開発を志したきっかけは、研修医時代のある患者との出会いだった。2年前から血便が出ていたというその患者は、「それほど体調も悪くないし、忙しくて病院に来られなかったが、最近になって背中が痛くなったため受診した」と語っていた。診察の結果、大腸ガンが骨にまで転移していたため、既に手の施しようがなかったと言う。

この経験を通じて阿部さんは、「患者を、適切なタイミングで適切な医療につなげること」の重要性を痛感したと語る。

「理想は、利用者が自宅で気軽に問診を受けられる仕組みを作ることです。ちょっと体調が良くないな、と思った時、スマートフォンなどに症状を入力すると、アプリから病院にデータが送られ、受診、診察がスムーズに行われる。今後は多言語化も進め、こうしたソリューションを世界中の人たちに届けたいと思っています」