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Highlighting JAPAN

未来のファッション界の担い手

東京の文化服装学院では、毎年、文化祭のメインイベントとして学生たちの手によるファッションショーが開催され、多くの来場者を集めている。

文化服装学院は1923年、日本初の服飾教育学校として認可された専門学校である。これまでに30万人以上の卒業生を送り出し、「Yohji Yamamoto」の山本耀司や「UNDERCOVER」の高橋盾などの世界的ファッションデザイナーを数多く輩出してきた。現在、服飾、ファッション工科、ファッション流通、ファッション工芸の4つの専門課程で約3500名の学生たちがファッション業界での活躍を夢見ながら学んでいる。

毎年11月に開催される文化祭では、学生の作品の展示販売のほか、学院施設の公開、学生が運営するセレクトショップの出店などが行われ、多くの来場者でにぎわう。中でも、来場者が最も注目するのが、学生たちの作品が披露されるファッションショーである。

毎年2万人もの来場者を集めるこのファッションショーは、ファッション業界のサポートや同学院の教員の下、企画構成、作品制作、スタイリングはもちろん、演出、モデル、ヘアメイク、会場づくりまで、全て学生たちの手で作られるのが特徴である。演出もさることながら、細部まで手の込んだ洋服の数々は、毎年、多くの観客に驚きを与えている。

学生が主体となってショーを作り上げることの意義について、教員でショー委員長を務める吉村香さんと羽田さゆ里さんはこう語る。

「学生たちは、5月の初めからチームを編成して準備に取り掛かります。各シーンの企画学生は3名と他のパートの学生が協力して1つのシーンを作り上げるのです。最近の学生は他者と激しく議論するのが苦手で、最初はうまくコミュニケーションが取れない事もあります。完成度の高い作品を作り上げるためには妥協することなく、摩擦や衝突は避けて通れず、その経験から多くを学び半年間で学生たちは成長していきます」

このファッションショーには、国内外の企業、繊維団体、産地、商社などから様々な素材が提供される。学生はどの素材を用いて、どのようなテーマでシーンを構成したいのかを考えプレゼンテーションを行う。このプロセスを通過した学生がシーン長を務め、企画3名・デザインスタッフ3名でデザインを考える。

今年は、8つのシーンを設けてショーが構成された。1つのシーンは約3分。シーンごとに9~11名のモデルが次々と登場する。米国のアウトドアブランド「エディー・バウアー」社が提供の素材を使用したチームは、「頂上」を意味する「TEPPEN」というシーン名で、高みを目指す登山家の生き様を表現、青、赤、白を基調とした大胆なデザインは、アウトドアウエアの未来像を暗示していた。イタリアの老舗生地メーカー「チェルッティ」社から素材の提供を受けたチームは「Ideal」というシーン名でスーツの歴史をテーマに演出した。クラシカルなデザインの中にモダンさを取り入れたデザインは、服飾の更なる可能性を感じさせた。

中でも、ひときわ特徴的だったのが、ウクライナの民族衣装をモチーフにした「Buvivian」と名付けられたシーン。ウクライナ大使館と藤掛株式会社から提供を受けたフォークロア調の生地をベースに、花柄のモチーフをあしらったカラフルでかわいらしい作品は、観客から大きな拍手を浴びていた。1回約30分のショーが3日間で16回行われ、約900名の客席は、常に満席だった。

今回、ショー委員長を務める服飾専門課程服装科2年の佐々木治穂邦さんは、入学前に同学院のファッションショーを見たことが、入学のきっかけだったと言う。「服はもちろん、音楽や照明、演出の素晴らしさに圧倒されました。『本当にこれが学生の作品なのか』と驚くと同時に、『自分の手で、こんなショーを作ってみたい』と思ったのです」

文化祭でのファッションショーに関わる学生は総勢1000人にも及ぶ。自らの手でクオリティの高いショーを制作するという貴重な経験が、次の時代の服飾業界を担う人材を生み出していく。