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Highlighting JAPAN

 

ゼロ・ウェイストの社会を目指して


徳島県の山間にある上勝町(人口約1500人)を拠点とする「ゼロ・ウェイストアカデミー」の理事長を務める坂野晶さんは、ごみを生み出さない「ゼロ・ウェイスト」を広める活動を行なっている。

環境問題に関心を持つようになったきっかけをお教えください。

10歳の時に絵本で、カカポというニュージーランドの飛べない鳥が、人間や外来種の影響で、絶滅の危機にひんしているのを知ったことです。私は鳥が大好きなので、どのようにしたらカカポを守れるのかを考えるようになり、自然保護や環境問題に関心が高まっていったのです。

環境問題の解決には社会の仕組みを変える必要があると考え、大学では環境政策を学びました。大学を卒業し、企業で約2年働いた後、大学院進学を決め、入学までのしばらくの間を大学時代の友人の故郷である上勝町で過ごしていました。その間にご縁があり、大学院進学を一旦やめて新たなスタッフを探していたNPO法人ゼロ・ウェイストアカデミーで活動することを決めました。ゼロ・ウェイストアカデミーは、ごみ自体を生み出さない社会を作る「ゼロ・ウェイスト」を推進する人材育成、普及啓発、調査などの活動を行うため、2005年に上勝町が中心となって設立されました。環境問題に対して、何ができて、何ができないか。机上の空論ではなく、特定の地域という具体的な実例となる場で環境政策の実効性を検証していける機会と考え、2015年に理事長への就任を決めました。

ゼロ・ウェイストに関する上勝町の取組をお教えください。

上勝町は2003年に、ごみの減量、再利用、リサイクルを進め、焼却や埋め立て処理せざるを得ないごみを、2020年までに最大限無くすという「ゼロ・ウェイスト宣言」を発表しました。その実現のために、上勝町では住民が自らごみ集積所に家庭のごみを運び、リサイクルするために瓶、缶、紙など45種類に分別しています。集積所の一角にある「くるくるショップ」には、再利用できる食器や服など、住民が持ち寄った物が並べられており、誰もが無料で持ち帰ることができます。また、生ごみは各家庭で堆肥化されます。こうした取組の結果、リサイクル率は約80%と、全国平均の約4倍となっています。町は高齢化、過疎化という問題を抱え、高額なごみ処理施設に投資する予算がないという状況で、役場の職員も住民も、町の問題を自分事として解決しなければという意識を持ったからこそ、実現したとも言えます。ただ、残りの約20%は、塩化ビニル製品、ゴム、紙おむつなど、現状ではリサイクルが難しいものです。「ごみにならざるを得ない」製品が無くなるように、製品設計や社会のしくみを変えていく必要があります。

そのためにゼロ・ウェイストアカデミーはどのようなことに取り組んでいるのでしょうか。

2017年から、ゼロ・ウェイストアカデミーはリサイクルやごみの発生抑制などゼロ・ウェイストに取り組む事業所に対する認証制度を始めました。これまで、町内や、神奈川県、高知県などにある飲食店や衣料店など13店舗と12ブランドが認証を得ています。最終的にごみとなってしまう製品の仕入れの見直しが広がっていけば、ごみのない社会への転換が進むと思います。

その他にも、町内外での教育、研修活動を行っています。2019年9月には、子供たちが楽しみながらゼロ・ウェイストを学べるカードゲームを作りました。参加者が、「ストロー」、「レジ袋」、「穴のあいた靴下」など日用品が書かれたカードを引き、それらの物をどのようにリユース、リペア(修理)、リメイク(作り直し)、リサイクル、ロット(たい肥化)、あるいは、リフューズ(そもそも使わないこと)するかを考えるというゲームです。実際、子どもたちはゲームをしながら、物をながく使うことやリフューズのためのアイデアを必死に考え出そうとしますので、それが日常生活での行動へとつながってほしいと思っています。

2019年1月にはスイスで開催された世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で共同議長を務めましたが、印象に残っていることをお教えください。

コスタリカの大統領と話したことは特に印象深かったです。コスタリカは環境分野で様々な先進的な取組を行っていますが、ごみの回収やリサイクルには改善の余地があるそうです。大統領からは、上勝町の経験を活かして、コスタリカに力を貸してくれないかという話がありました。

コスタリカで実際にどのような支援ができるかはまだ分かりませんが、大統領との会話で、国際的な分野での私たちの潜在的な役割に関して、とても勇気付けられました。これまでも国内のみならず海外からも数多くの視察や研修を受け入れていますし、インターネットを通じて、情報を発信しています。その結果、上勝町の取組の国際的な認知度は高まっています。実際、「くるくるショップ」はマレーシアなどの海外でも広がっています。全ての住民の参加によってゼロ・ウェイストを進めている自治体は世界的に珍しいですが、ごみ問題を抱える地域にとって、上勝町は希望となっていると言えます。

今後の目標をお聞かせください。

上勝町での取組を、国内外の地域でローカライズさせ、広げる支援を進めていきたいです。また、日本においても持続可能な開発目標(SDGs)やESG金融をきっかけとして、変わりつつある企業の環境への取組、社会の環境意識や行動の変化を促進する行政の政策作りにも、さらに深く携わっていきたいと思います。