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Highlighting JAPAN

300年の歴史を誇る金沢の台所

300年以上の歴史を誇る石川県金沢市の近江町市場は、地元で獲れる魚介類や野菜を販売する店が軒を連ね、一年を通して、地元客や観光客でにぎわう活気あふれる市場である。

東京から北陸新幹線に乗ると約2時間30分で日本海に面した北陸地方の都市、石川県金沢市に着く。金沢は江戸時代に加賀藩によって築かれた城下町で、今も伝統的な街並みや文化が残されている。その中でも、金沢城にほど近く、鮮魚や野菜などを扱う小売店や飲食店など約180店が軒を並べる近江町市場は「おみちょ」の愛称で市民に親しまれている。JR金沢駅から徒歩15分の距離にあり、平日で1日約2万人、週末には約3万人が訪れる。

「金沢市内には犀川(さいがわ)と浅野川という2本の川が流れていて、かつてはその川辺のあちこちに市が立っていたようです。それを、1721年に加賀藩が金沢城に近い現在の場所に集めたのが近江町市場の始まりとされています」と近江町市場商店街振興組合の常務理事を務める江口弘泰さんは言う。

江戸時代、近江町市場は加賀藩御用達の市場として栄えたが、明治時代になると、卸売・仲卸・小売りの多種多様な店舗が軒を連ねるようになり、「市民の台所」として発展していく。その後、卸売市場は別の場所に開設され、近江町市場は鮮魚、青果、精肉などを販売する小売店や飲食品店を中心とする市場となった。

近江町市場は、建物の老朽化により2007年から再開発事業が始まり、2009年には市場の一角に5階建て商業施設「近江町いちば館」が完成した。新しい建物になっても、鮮魚や青果の店が並び、「安いよ!」「新鮮だよ!」など昔ながらの店員の威勢の良い掛け声が響いている。

「近江町市場には、日本海で獲れる魚介類や加賀野菜と呼ばれる農作物など、四季折々に旬の食材が並ぶので、季節の移り変わりを身近に感じることができます」と江口さんは話す。

近江町市場には、ブリ、イカ、カニ、エビなど日本海で獲れる豊富な魚介類が集まる。中でもカニはその美味しさで知られ、毎年11月には「カニまつり」が開催され、大勢の人でにぎわう。また、市場を彩る加賀野菜は、主に金沢で栽培され、江戸時代から受け継がれた季節感に富んだ野菜で、代表的なものには春のたけのこ、夏から秋にかけては加賀太キュウリやヘタ紫なす、冬は源助大根や金沢一本太ネギなどがある。こうした旬の食材を、九谷焼や蒔絵が施された金沢漆器など、いずれも加賀藩時代の伝統を汲む美しい器に盛り付けた料理は金沢の伝統料理であり、「加賀料理」と呼ばれる。

「近江町市場の一番の特徴は対面販売にあります。その日仕入れた商品は店頭にずらりと並べられ、今日は何がおいしいか、どう調理すると良いかなど、店員は客と話をしながら商品を売っているのです」と江口さんは話す。

2015年に北陸新幹線が開業すると、市場に大きな変化が起きる。国内外から金沢市を訪れる観光客は700万人を数え、近江町市場への来場者もそれまでの約1.6倍にまで増加した。「市民の台所」が観光地としての役目も担うことになった。振興組合は店主と地元の常連客を集め、意見交換を重ね、近江町市場の歩き方や買い物の仕方を解説した日本語と英語の市場マップを配布するなど、地元客も観光客も買い物や観光を楽しめるよう、対応を進めた。

「地元の人たちが日常的に利用している市場だからこそ、観光客の皆さんも安心して買い物が楽しめます。普段は近所のショッピングセンターなどで買い物を済ませている近郊の人でも、お祭りやお祝いの日の買い物には必ず近江町にやって来るという人も多いです。私たちはそんな昔と変わらぬ近江町ならではの魅力をいつまでも大切にしていきたいと思っています」と江口さんは話す。