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Highlighting JAPAN

街に命を吹き込む建築デザイン

東京を拠点とするイタリア出身の建築家、アストリッド・クラインさんは、都市に命を吹き込むべく、独創的かつ人々の感性を揺さぶるような建物を設計し、国際的な評価を得ている。

2011年、東京都渋谷区にオープンした商業施設「代官山T-SITE」は、ブランドロゴである小さな「T」の字を無数に編み込んだような白い壁面に加え、建物自体が大きなTの形になっているなど、遊び心にあふれる軽やかな建物が印象的である。施設の中核となっている、本や音楽、映画の媒体を扱う書店の店内では、窓辺に置かれたベンチやソファで、コーヒーを飲みながらゆったりとくつろいで商品を手に取ることができる。2012年、World Architecture Festival Awardsのショッピングセンター部門最優秀賞を始め幾つかの賞を獲得した。この施設の設計に携わったのは、「クライン ダイサム アーキテクツ(KDa)」のアストリッド・クラインさんである。

イタリアで生まれたクラインさんは、フランスとイギリスで建築とインテリアを学んだ。1988年には学生時代に共に学んだマーク・ダイサムさんと来日したが、ちょうどバブル経済の真っただ中の日本では、自由な発想から生まれた独創的な建物が次々と建設されていた。それを知った2人は、日本で仕事をしてみようと伊東豊雄建築設計事務所に所属した。

「当時は、建物を見れば誰の設計かわかるような独自のスタイルを持つ建築家が主流でした。でも伊東さんは、人々が集まってそれぞれの体験が生まれるシチュエーションに合わせて設計をするから、建物の形が毎回違う。私はその考え方をとてもとても好きでした」とクラインさんは言う。1991年にダイサムさんとKDaを設立してからも、クラインさんは“体験”を建築の最も大切なものと考え設計してきた。例えば、KDaの代表作の一つとなった、山梨県小淵沢の「リーフ・チャペル」。2枚の葉が合わさったようなドーム型のチャペルは、セレモニーの進行に合わせて天井が開閉し、人々の“体験”を鮮やかに彩る。

クラインさんの活動の領域は建築を超えて幅広い。その一つに、2003年から主催するプレゼンテーション・イベント「PechaKucha Night」がある。「PechaKucha」は日本語でおしゃべりな様子を表したオノマトペである。20枚のスライドを1枚につき20秒でプレゼンテーションするというルールの下にクリエイターが集うこのイベントは、今では世界約1180都市で開催されるほどのグローバルムーブメントになった。

「プロダクトにしてもファッションにしても、世界中の人たちが憧れるような素晴らしいコンテンツをたくさん生み出せるのに、日本人はそれを発信するのが少し苦手」と言うクラインさんは、5年前から政府の「クールジャパン戦略推進会議」にも参加して、提言を続けている。「東京はもっと都市の魅力をアップしなければなりません。デザインに関して、東京は世界で大きな存在感がある。でも30年前は、もっとワイルドでおもしろい都市だったんです」とクラインさんは続ける。景観条例などが厳しくなり、東京は美観の整った都市にはなったが、その分、建築は均質になり、かつての勢いを失っている。「東京は、私の人生の中で最も長く住んだ街。そしてこれからも私の活動の拠点になる、愛する街。東京にもっと必要なのは、そう、「Wow!」という感じ!」

“エクスペリエンス”と“エモーション”をキーワードに、クラインさんの活動は都市に生命力を吹き込んでゆく。