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Highlighting JAPAN

 

文化の継承と創造


2020年のオリンピック・パラリンピックという機会をいかし、日本の文化芸術の魅力を発信する「日本博」が開催されている。日本博事務局事務総長である独立行政法人日本芸術文化振興会理事長の河村潤子さんに、日本文化の特徴や日本博の事業について伺った。

日本文化の特徴は何でしょうか。

日本文化の特徴の一つは、その時間軸の長さです。日本文化は、1万数千年前の縄文時代に作られた土器や土偶から、現代のアニメやマンガ、先端技術を使ったアートまで多様性に富んでいます。こうした文化の中には、古くからの技や感性が現代に生かされているものも少なくありません。アニメやマンガ製作者が、12〜13世紀に描かれた絵巻物から新たなアイデアや技法を発想することもあります。歌舞伎の演出や演技は、映画やテレビ、ゲームに影響を与えています。能の足の運び方を、舞台演劇で取り入れている俳優たちもいます。日本では、長い間継承されてきた文化と、それを生かして新たに創造された文化との両方を見ることができるのです。

近年、日本文化に関してどのような変化が見られるでしょうか。

ポップカルチャーやメディアアートが海外で人気を得るようになりました。例えば、1997年から開催されている文化庁メディア芸術祭では今回100を超える国・地域から作品が応募されるようになりました。以前、ある海外の受賞者は、アニメやマンガの本拠地である日本の賞を受賞できたことが嬉しいと述べていました。マンガやアニメがきっかけで日本に留学したり、それらの舞台となった地域を訪れる外国人も非常に増えています。

地方における文化も注目されるようになりました。地方の豊かな自然と文化芸術とを組み合わせたプログラムが各地で行われるようになっています。それらを代表する「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」や「瀬戸内国際芸術祭」には、国内外から多くの人が集っています。

人と人とをつなげる力、人の可能性を引き出す力、あるいは、地方を活性化する力など、文化には様々な力があることを、日本人が強く認識するようになったことは近年の大きな変化と言えます。

2019年3月から始まった日本博についてお教えください。

日本博は2020年に東京で開催されるオリンピック・パラリンピックの期間とその前後の期間を通して全国で催されます。総合テーマは「日本人と自然」で、縄文時代から現代に至るまで、自然に対する畏敬や自然との共存といった日本人の考え方を具現化した芸術を、美術展、舞台芸術公演などの事業を通じて紹介します。日本博によって、文化振興と共に、国内外の人々の交流促進など、社会的、経済的な価値が創出されることが期待されています。その事業数は数百に上ります。例えば、九州国立博物館では、10月から12月まで縄文土器の展示が行われます。また、今年が初演から300年目に当たる沖縄の歌舞劇「組踊」の全国ツアーが10月から11月まで行われます。来年には日本の先住民族であるアイヌ文化の発信事業、自然とのかかわりの中で育まれてきた暮らしの文化である和食、建築、工芸、ファッションや、マンガなど幅広い分野で展覧会が開催されます。多種の芸能を組み合わせた公演や新しいオペラも展開します。

今後、どのような日本文化を国内外に発信すべきとお考えでしょうか。

日本文化を支える技と人を、もっと多くの人に知っていただくことが大切です。伝統的な文化を後世に伝えていくためには、それに関連する技も人から人へと伝えていかなければなりません。例えば、寺院、仏像などの美術工芸品を修復する技、あるいは、伝統芸能において、衣裳や小道具を作る技などです。日本博の事業として2020年4月から京都で開催される国宝展では、美術品や古文書の修復工程も紹介する予定です。また、全国の飛鳥時代から現代までの日本を代表する建築模型展や文化財建造物の修理現場を公開する計画も立てられています。こうしたことが、日本文化の継承と発展のためにも必要であると思います。