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Highlighting JAPAN

 

自然と冒険からの学び


大場満郎さんは、アマゾン川6000kmの単独いかだ下り(1983)、グリーンランド西海岸1400km単独歩行(1985)、世界初の北極海単独徒歩横断(1997)、南極大陸単独徒歩横断(1999)など数々の偉業を遂げた冒険家である。現在は生まれ故郷の山形県最上町で「アースアカデミー大場満郎冒険学校」を主宰しながら地球と子どもたちの未来を思い続ける大場さんに、自然や冒険、生まれ故郷の山について伺った。

子どもの頃は、どのように育ったのでしょうか。

私は1953年、最上町の自然豊かな山村で、農家の長男として生まれました。子どもの頃は、学校や家で過ごす時間以外は、ずっと自然の中で遊んでいました。川で魚を獲ったり泳いだり、山には山菜、きのこ、栗などを採りに行きました。地面に落ちた枯れ葉に身を沈めて寝るのは最高の気分でした。山で様々な鳥の鳴き声を聞くことも大好きでした。

中学2年生の時に鷹匠の沓沢朝治さんと出会い、その生き方に私は大きな影響を受けました。隣町に住む沓沢さんは、夏は米を作り、冬はクマタカを使ってウサギなどの動物を獲っていました。野生のクマタカは非常にどう猛で警戒心が強いので、飼うのは非常に難しいのですが、沓沢さんはクマタカと絶対的な信頼関係を築いていました。クマタカと共に、山の中で自然と調和して生きている沓沢さんに憧れたのです。私も農業と鷹匠を両立させて生活するという夢を持ちました。

なぜ、冒険家の道へと進んだのでしょうか。

学校を卒業後、家業の農業を継ぎましたが、当時の多くの農家と同様に、農業だけで生計を立てることは難しく、農閑期には都会に働きに出ました。7年ほどそうした生活を続ける中で、日本ではなぜ農業だけで生活できないのか疑問を持つようになりました。そして、他国の状況はどうなのかを知りたくなったので、ヨーロッパやアフリカを貧乏旅行するようになったのです。これがきっかけとなり海外で旅することの面白さを知りました。やがて、単なる旅では飽き足らなくなり、アマゾン、北極、南極など厳しい自然の中を行く冒険へと足を踏み入れていったのです。農業を辞め、海外で冒険することに家族からも強い反対がありましたが、沓沢さんの言っていた「人間は好きなことをやらなければ駄目だ。そうしないと笑って死ねないぞ」という言葉通りに生きるようにしたのです。

北極や南極の極地での冒険でどのようなことを感じましたでしょうか。

人間は自然の一部であることを強く感じました。白い大地の中を無心に歩いていると、自分が自然の中に溶け込んでいるような感覚になります。そうした時は、力があふれ、疲れを感じることなく歩くことができました。もちろん、何度も命の危険に遭いました。そうした時には、畑の土や草の匂い、山で飲んだ清水の味など、故郷のことが頭の中によみがえり、「生きて帰ろう」という強い気持ちになったのです。自然に対して畏敬の念、謙虚さや感謝の気持ちを持つことの大切さを冒険から学びました。

2001年に設立された「アースアカデミー大場満郎冒険学校」の目的は何でしょうか。

冒険学校では、山登り、川でのいかだ下り、野菜作り、スキー、イグルー (雪の家) 作り、そり、雪中キャンプなど、様々な体験プログラムを用意しています。自然は人に様々なことを気付かせてくれる、先生みたいな存在です。しかし、特に今の子どもたちは自然と直接触れ合う機会が非常に少なくなっています。そうした機会を提供することで、人間が生きるために必要な知恵を身に付けてもらいたいのです。実際、子どもたちは皆、自然の中での体験を楽しんで、元気になって帰っていきます。

最上町周辺の山々の自然は素晴らしいです。長い尾根が続く神室連峰からの眺めは非常にきれいいですし、うっそうとしたブナの原生林が茂る山刀伐峠を歩くのも楽しいです。

今後の夢をお聞かせください。

極地では、氷河の後退など地球温暖化の影響を感じました。地球環境問題に関して、多くの人に関心を持ってもらいたいという思いがあり、2004年から、北極から南北アメリカを経て南極へ行き、そこから再び北上し、オーストラリア、日本、シベリアを経て北極へ戻るという「地球縦周り一周の旅」を始めました。この旅では私を含め複数の隊員が、現地で調査した自然環境、人々の生活や文化などを発信しています。これまでグリーンランドとカナダ北極圏を旅しましたが、大気や雪の調査をしたり、日本、コスタリカ、ドイツ、アラブ首長国連邦(UAE)など各国の子どもたちに衛星電話を通じて、現地の様子を伝えたりしました。残念ながら10年近く中断していますが、諦めずにこの旅を続けたいと思っています。

そして、これからも冒険学校で子どもたちに、自然の素晴らしさ、そして厳しさを伝えていきたいのです。