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Highlighting JAPAN

城下町を一つのホテルに

兵庫県丹波篠山市では、伝統的古民家を再生し地域の活性化につなげる取組が行われている。

四方を山に囲まれた人口4万2千人の兵庫県丹波篠山市は、江戸初期に建てられた篠山城を中心とする城下町である。大阪や京都から車で1時間ほどの距離に位置し、400年に及ぶ京文化の影響を残す町並みや建物、その伝統を受け継ぐ建造物が数多く残り、2004年には国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されている。 指定地区以外にも、市の中心から車で10分ほどの距離にある丸山地区にも豊かな自然が残る里山に古民家が立ち並んでいる。しかし過疎化の進行で住民は土地を離れ古民家は空き家となり、やがては廃墟となりかねない状況だった。

この状況に立ち上がったのが、一般社団法人ノオト代表理事の金野幸雄さんである。

金野さんは2009年にノオトを立ち上げ、地域住民やNPOと連携し、銀行や行政などに支援を求め、古民家再生活動に着手した。その時、既に丸山地区は12戸のうち7戸が空き家で人口はわずか20人、地域は消滅の危機にひんしていた。

ノオトは地域住民とワークショップを開き、地区の将来について議論を重ねた。集落にある築約150年の空き家3戸を一棟貸しの民宿に、1戸の離れと蔵をレストランに改修し、同年10月に「集落丸山」をオープンさせた。

集落丸山の民宿の受付や清掃、朝食といったサービスは住民たちが担う。朝食は手作りの黒豆味噌のお味噌汁や丸山米のご飯といった地産地消の食材をふんだんに使った料理が提供される。夕食は集落内のレストランで、イノシシや鹿などのジビエ、兵庫県のブランド食材である但馬牛や淡路島産の魚を使ったフレンチ料理、さらにはミシュランガイド一つ星を獲得した蕎麦会席を堪能できる。

集落丸山は、里山の美しい景色の中で日本の伝統的な暮らしを体験できる場所として評判になり、国内外から数多くの宿泊客が訪れるようになった。

「オープンから9年が経ち、予想以上の反響で集落は活気にあふれています。次の10年に向けて、残る空き家を再生し、インバウンド旅行客を呼び込もうと計画しています」と金野さんは言う。

ノオトが次に取り組んだのは丹波篠山市中心部の古民家再生である。2014年、兵庫、大阪、京都全域が「関西圏国家戦略特別区域」に指定され、「歴史的建築物等に関する旅館業法の特例」が認められたことを受け、2015年、ノオトは古民家4棟を改修して全国で初めてのホテル事業に取り掛かった。その特徴は、篠山城を取り囲むように点在する古民家の1棟をホテルのフロント、客室5室、レストランとし、他の3棟を合計6室の宿泊棟としたことにある。フロントでチェックインした宿泊客は美しい城下町を楽しみながら「部屋」へとたどり着く、そんなおもてなしを提供する。

金野さんは「丹波篠山の城下町を『一つのホテル』に見立てることがホテルのコンセプトです。丹波篠山には、お城、能舞台のある神社、お祭りなど、日本に古くからあるものがそろっています。フロントやレストランを宿泊施設と離すことで、宿泊客は部屋を出て城下町を歩くことになり、丹波篠山の自然、歴史、文化を大切にする市民の心に触れることでしょう」と語る。

現在、ノオトは丹波篠山市内で10棟の宿泊施設を含め、約50棟の空き家となった古民家をレストラン、カフェ、工房、ギャラリーなどに再生し、さらには古都奈良の酒蔵をホテルに再生している。小さな集落から始まった活動は、観光客を呼び込み、都市部からの移住を促し、雇用創出に貢献したばかりでなく、伝統的建築技術の継承など様々な波及効果をもたらしながら、更なる広がりを見せている。