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Highlighting JAPAN

 

 

日本のパパのワークライフバランスの変化

2010年(平成22年)には子育てする男という意味の「イクメン」という言葉が流行語となり、平成は日本人の就労意識に大きな変化が見て取れた。その変化とはどういうものか、そして何が社会を変える原動力となったのだろうか。

2018年(平成30年)に「働き方改革関連法」が成立、長時間労働是正の号令がかかる今、男性の働き手が会社だけでなく家庭にも軸足を置き始めている。日本社会の就労意識は、平成の30年間で大きく変化してきた。

自身も育児に参加し、ワークライフバランスのシフトチェンジを体験してきたNPO法人ファザーリング・ジャパン代表の安藤哲也さんは、自身の育児参加のきっかけは1997年(平成9年)に結婚し、子どもを授かったことだったと語る。その頃出版社を退職して書店に勤務していた安藤さんは、フルタイムで働く妻と手探りで共働き生活を歩んだ。保育園と自宅と勤務先の書店が自転車で15分圏内という職住近接環境を上手に利用し、夕方に子供を迎えに行くとそのままおぶってレジに立ち、夜、勤め先から帰宅した妻に子どもを渡した。子どもをお風呂に入れ、寝かしつけてからまた店に戻って残務に当たることもあった。「働き続けたいという妻の意思を尊重したのと、僕自身も子育てをしてみたいという思いとで、夫婦双方ができることを持ち寄って距離感を詰めていったのです」と、安藤さんは振り返る。

当時、日本ではまだ共働き夫婦を支える仕組みはできていなかった。子育てを始めた21年前、安藤さんの娘が通った都内の保育園では100家族中、送迎をする父親の姿は3人だけだった。周囲は子育ての場での父親の存在に不慣れで、腫れ物に触るような扱いを受けることもあった。子どもが発熱したとの電話を受けて仕事を中断し、保育園へ急ぎ迎えに行くような悔しさもある一方で、子育ての中でこそ感じる喜びもある。そういった様々な感情を「働く母親は皆知っている。でもそれを知らない日本の男性は多いのです」と安藤さんは話す。漫然と父親「である」ではなく、自覚的に父親を「する」男性が増えれば家族の在り方や働き方が変わるはずだとの信念のもと、2007年にNPO法人ファザーリング・ジャパンを設立した。

ちょうどその頃、日本にワークライフバランスという言葉が根付き始め、2010年には「イクメン(育児をする男)」という造語が流行語となった。以来「ブームには終わらせない」と、日本のパパたちに育児をすることは家族と自分の人生を豊かにすること、と伝え続けた。「経済構造の変化の結果、現代のパパたちは共働きが当たり前で、男が育児する必然性のある新しい仕組みの社会にいる。仕事の傍ら子どもの学校のPTA会長も引き受けるなど、頑張るパパの姿が周囲に影響を与え、企業経営者や管理職の意識も変わってきました」と、安藤さんたちのNPOは今、イクボス(育児に理解のある上司や経営者)の啓蒙活動に力を注いでいる。

これからのワークライフバランスとはどちらかを犠牲にせねばならない天秤型ではなく、子育て・仕事・勉強・介護などの様々な要素が人生の中に共存する寄せ鍋型であるべきだと安藤さんは話す。ファザーリング・ジャパンは日本の男性が当たり前に育児をする社会を実現して「イクメン」という言葉をなくすことがミッションで、あと10年ほどで役目を終えて解散するのが夢だそうである。