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Highlighting JAPAN

 

信州文化を堪能する美食の列車旅

しなの鉄道が運行する「ろくもん」は、信州の文化に触れられる観光列車である。乗車中は美しい景色とおいしい食事を楽しみながら、優雅な時を過ごすことができる。

日本有数のリゾート地軽井沢と、県庁所在地である長野との間を2時間ほどで走る「ろくもん」は、2014年7月に誕生した。名称の由来は、沿線の上田市にゆかりがある武将、真田一族の家紋「六文銭」である。6枚の硬貨が並ぶデザインは、同じく真田家の家紋である「結び雁金」「州浜」と共に、車体や内装、チケットなどにもあしらわれている。「ろくもん」のハッとするような深い赤の車体もまた、真田家が甲冑や武具を赤で統一した「赤備え」がモチーフである。

デザインは、多くの列車デザインでも知られるインダストリアルデザイナー、水戸岡鋭治さんが手掛けた。水戸岡さんは「ろくもん」に関わるデザインをトータルで行っており、チケットや限定土産のパッケージの他、「ろくもん」乗客専用のラウンジを始めとしたしなの鉄道軽井沢駅の駅舎も担当している。また、地元らしさにこだわっているのも大きな特徴である。例えば、内装に使われている木材の多くは長野県産で、3両編成のうち1号車はカラマツ、2号車はスギ、3号車はヒノキが採用された。同様に、車内で提供される料理も信州の食材を中心とし、地元の名料理人が腕を振るう。

「ろくもん」では懐石料理やワインプランなど幾つか料理を楽しめるプランがあるが、今回は軽井沢から長野へ向かう「ろくもん1号」の洋食コースの食事付きプランを利用した。発車を知らせるホラ貝の音が響き渡ると、構内のキッズスペースで遊んでいた親子や駅員の方々が笑顔を見送ってくれた。走り出した後はドリンクの提供が始まるが、アルコールを好むなら、ぶどうやりんごの産地である長野県に敬意を払い、ワインやシードルで乾杯するのも良いだろう。料理はシェフが列車に乗り込んで提供するため、温かい料理は温かいまま味わえる趣向である。「信州サーモン」「蓼科牛」といった地元産食材の名が並ぶメニューを眺めると心が躍る。

舌鼓を打っているうちに、浅間山のビュースポットを知らせるアナウンスが聞こえ、その雄大な姿を堪能できる。発車から約1時間後に到着する5駅目の上田駅でお迎えとお見送りをしてくれるのは、「赤備え」に身を包んだ駅長の酒井彦弥さんである。「甲冑駅長」として親しまれる酒井さんが出発時に挙げた「おのおの方、発車でござる!」との声には、乗客たちも思わず笑顔を浮かべていた。以降は真田氏の居城・上田城を眺めたり、6駅目の戸倉駅で温泉のお湯を使っていれた日本茶をいただいているうちに、もう長野駅へと到着である。

しなの鉄道経営戦略部の山本将丸さんによると、「ろくもん」が誕生した背景の一つには、しなの鉄道の年間乗客数減少があったと言う。人を集める方法を模索する中で行き着いた答えだが、今では「しなの鉄道」より知名度が高まっていると感じることもあるそうだ。「地元で走っているのが誇らしい、と仰る方もいて嬉しいですね。これからも沿線地域の魅力を満載した列車として、地元の広告塔になれればいいと思います」と、山本さんは語る。乗車時、車窓から景色を眺めていると、道行く人が「ろくもん」に向かって手を振っていた。山本さんの言葉通り、地元の人に親しまれていることを実感した瞬間である。景色に食事、盛り沢山のイベントと、乗客が楽しめる要素を満載した「ろくもん」の旅では、信州の人々による地元への愛とおもてなしの心を存分に味わうことができるだろう。