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Highlighting JAPAN

 

 

優れた翻訳者を育て、日本文学を世界へ発信

日本文学は世界の文学シーンの中で独自のプレゼンスを持ち、支持され続けてきた。文化庁では海外普及を更に促す数々の施策を実施している。宮田亮平長官に取組の内容を伺った。

金工作家として数多の作品を世に送り出す一方、母校の東京藝術大学で約10年にわたって学長を務めてこられた長官の目に、日本文学はどのように映ってきましたか。
ひもとくたびに異世界へ強く引き込まれる「凝縮された玉手箱」と言えます。書かれた文字もさることながら、その前後や行間を読み解く愉しみを備えていることも、日本文学を世界の文学シーンにおいてまれな存在にしている理由だと考えています。

それゆえに日本文学の含蓄を損なわずに外国語に翻訳することは非常にチャレンジングな仕事です。そこで文化庁では2002年度から「現代日本文学翻訳・普及事業」(JLPP)というプロジェクトを開始しました。明治以降に発表された現代日本文学作品から候補作を選び、英語、仏語、独語、露語、インドネシア語に翻訳、2015年までに約180のタイトルが翻訳・出版されています。これらの作品は、各国の書店で発売されたほか、図書館・大学などにも寄贈されてきました。中には、日本であまりなじみがなかった作品が海外現地で評判となり、日本に逆輸入されて国内での再評価につながったケースもあります。

翻訳出版事業は2016年度末に終了し、現在は、優れた現代日本文学の翻訳家を発掘・育成することを目的とした翻訳コンクールを始め、翻訳ワークショップ、シンポジウム、フォーラムなどの事業を行っています。

翻訳家の育成は成果を上げていますか。
2011年から計3回、翻訳コンクールを実施しました。日本文学が世界で存在感を高めてきたのは、作品を著した「表現者」、作品を読む海外の「読者」、そして両者を結ぶ翻訳家、つまり「伝道者」のトライアングルあればこそでしょう。2019年6~7月には第4回の募集を行います。言語は英語またはロシア語で、小説部門、評論・エッセイ部門、両部門の計2点が課題です。例えば評論・エッセイ部門では「春、梨の花が咲いてしとしと雨でも降ったら定めし風情があるだろう。梨を植えたら、早く花を見たい」(『梨の花』(小沼丹・著)といった作品があります。翻訳は容易ではないでしょうが、ストーリーのすべて汲み取り、作者の生きざま、吐息をも理解するような気持ちで臨むことが大切だと思います。ロシア語は初めての翻訳言語であり、たくさんの優れた作品が集まることに期待しています。また、2018年には東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会に向けた文化プログラムの一環として、「国際文芸フェスティバルTOKYO」を始めました。海外・国内の文芸作品や、派生するコンテンツの魅力を多様な切り口で紹介し、日本文学を含む文芸全体を盛り上げていくことが狙いです。日本の読書界・出版界を活性化させ、日本文学の価値と情報を世界へ発信するイベントに育てていきたいと考えています。

ご自身の心に残る日本文学を教えてください。
木下順二作の「夕鶴」です。これは私の出身地である新潟県・佐渡の民話をモチーフにした作品であることから、私の父、母、兄たちが総出で演出や舞台美術、衣装を手掛け、街の住人を役者にして、地元で舞台化しました。当時私はまだ4歳の幼児でしたが、障子越しに機を織る鶴のシルエットを、今も鮮明に思い出すことができます。名作と言われる日本文学はこれまで多く舞台化、実写映画化、アニメ化されてきました。今後もそうした作品が増えるように力を尽くすつもりです。