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Highlighting JAPAN

 

 

着ている人の動きや生体情報を認識するスマートアパレル「e-skin」

伸び縮みするセンサーを搭載した「e-skin」は、着ているだけで体の動きや生体情報を把握して数値化する衣服型ウェアラブルデバイスである。ゲームやスポーツのほか、予防医療などへの応用も期待されている。

スマートアパレル「e-skin」は、着ている人の動きを認識する“着るセンサー”である。従来の体感型VRゲームではカメラを使って人の動きを把握するが、e-skinならばカメラが不要なので、屋外などカメラを設置できない所でも動きを捉えることができる。

その用途はゲームに限らない。スポーツやフィットネスのフォームを解析したり、赤ちゃんや高齢者の就寝中の呼吸や体勢から健康状態をチェックするなど、応用範囲はかなり広い。e-skinから得られた身体データを様々な用途に活用するためのソフトウェアも公開されている。

「開発当初はゲーム用途が多いだろうと考えていましたが、ゲーム業界以外からの問い合わせの方が多かったのは想定外でした。工場で働いている人やトラックドライバーの呼吸や体勢モニタリングなど、安全管理に役立てたいという要望を多数もらっています。介護士が身体介助を行う時の姿勢をチェックして腰痛防止に役立てるための実験も予定しています」と、Xenomaの代表取締役CEOの網盛一郎さんは話す。

e-skinは東京大学大学院工学系研究科の染谷隆夫教授が開発した伸縮性エレクトロニクス技術がベースとなっており、その技術を実用化するために設立されたスピンオフベンチャーがXenomaである。同研究室では生体に直接貼り付けられる極薄のセンサーの研究を行っており、網盛さんはその周辺技術である「伸び縮みするエレクトロニクス」という部分に着目して衣類を製作した。

e-skinはセンサーを含む衣服上の回路のパターンを用途に応じて自在に変えられる。胸の部分に取り付けられた「Hub」と呼ばれるパーツには、スマホやPCにデータを送るためのBluetooth、加速度センサー、ジャイロセンサーなどが搭載されており、Hubを取り外してMicroUSBで充電する。

変形・伸縮が可能なだけでなく、汗をかいても影響のない耐水性も備えていて、洗濯機で洗濯することもできる。ただし、センサーにとっては水に濡れることよりもひねったり伸ばされたりする方が問題で、繰り返し着て運動できる耐久性を重視して改良を重ねた。さらに10万回に及ぶ耐久テストも実施した。

「伸び縮みするセンサーという革新的な技術を実用化したのがe-skinですが、製品化にあたっては原型をとどめないくらいの改良を加えています。例えば、センサーとなるインクには有機溶剤が使われていますが、アパレルの製造工場では有機溶剤は使えませんので水系インクに変えました。既存の製造設備で作れるものでなければ普及しませんから、アカデミアが苦手とする生産方法の最適化を私達が行いました」と、網盛さんは開発当時を振り返ってそう説明する。

現在は、着ているだけで呼吸や心電、表面温度を常時計測し、転倒時の身体的データなども取得できる認知症患者向けのセンシング衣料を開発中である。将来的には、スポーツ選手や認知症患者などの特定の人ではなく、全ての人が日常的に着て、日々の生体情報をセンシングすることを目指している。「社会的価値を考えるならば、目指すべきは予防医療。常に生体情報をモニタリングすることで、心筋梗塞を発症する直前の兆候など、これまでにない有益な医療ビッグデータを集めたり、個人の健康モニタリングも活かせるはずです」と網盛さんは展望を語る。既に海外の医療機関からの問い合わせもあるといい、新しい予防医療デバイスとしての第一歩を踏み出している。