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Highlighting JAPAN

 

道南の海岸線を海と山の幸のBBQと共に楽しむ

津軽海峡や函館山を望み、夜になると車窓から線状に連なった「横夜景」が見えるながまれ海峡号は、オリジナリティに富んだ心温まるおもてなしを満喫できる、美しい濃紺色の小さな観光列車である。

道南いさりび鉄道は、函館市から津軽海峡に面した北斗市を経て、人口約4000人の街・木古内(きこない)町を結ぶ総距離37.8㎞のローカル線である。2016年の北海道新幹線開通に伴い、経営が厳しい並行在来線として廃止が検討されたが、沿線住民の足を守ろうと、第三セクター方式で存続が決定した。その話題づくりとして、同鉄道が5月~10月に月2回運行する観光列車が、ながまれ海峡号である。道南地域の方言で「のんびりして」を意味する「ながまれ」の名の通り、ゆっくりしたペースで走る。低予算で運行しているため、「日本一貧乏な観光列車」とも呼ばれるが、その苦境を逆手に取った「沿線の特色を伝える工夫」や「地元民とのふれあい」を前面に出すサービスが評価され、2016年には「鉄旅オブザイヤー」グランプリの座にも輝いた。

函館駅で車両に乗ってみると、大漁旗やイカのぬいぐるみなどを使った手作り感あふれる飾り付けに、まず頬が緩んでしまう。定員50人弱の車内は満席で、15時51分の発車と同時に「いさ鉄」のスタッフが「いってらっしゃい」と横断幕を広げて手を振ってくれる。細やかな心配りに“これからの旅”への期待が膨らんでいく。

最初の停車駅の上磯駅に到着すると、ホームではハッピ姿の地元商店街の人たちが、名物の「ホッキしゅうまい」やお菓子などが詰められた“おつまみ”を窓の外から立ち売りしてくれる。冷房装置のない、窓の開閉が可能な旧型車両「キハ40形」だが、今となっては新鮮な体験である。

上磯駅を発車すると、津軽海峡が眼前に広がり、列車が数分停車する。これは函館湾の先に函館山が重なる絶景を乗客に味わってもらうためで、こうした途中停車や減速運転は、様々な景観スポットで配慮されている。

折り返し地点の木古内駅に停車し、『道の駅・みそぎの郷きこない』でお土産を買って列車に戻ると、席には「どうなんパスタセット」が用意されていた。道の駅の一角にあるイタリアンレストラン特製で、ミニサイズの日替わりショートパスタに、木古内町自慢の塩パンが付いている。これらは前菜で、メインディッシュは茂辺地(もへじ)駅に着く19時頃、食欲をそそる香りと煙と共に現れた。ホーム上で、地域の人たちが旬の海産物や肉、野菜を焼いている。この日はツブ貝・ほっき貝・羊肉・とうきび・メークイン等の食材が並び、目の前で箱詰めされ、焼きたての熱さが手に伝わるBBQ弁当となる。旅も残り30分を切った頃、車内の照明が落ち、海に沿って横線状に広がる函館の街あかりが目に染み入ってくる。イカ漁が行われる7月〜9月には、漁り火が灯ることもあるという。19時47分、函館駅に滑り込む列車を、また道南いさりび鉄道のスタッフが、窓の外で「お帰りなさい」と迎えてくれた。

道南いさりび鉄道経営企画部の春井満広さんは「この鉄道のアットホームな雰囲気やコミュニケーションで作るおもてなしを楽しんでもらいたい。地域の人たちと触れ合うことで、沿線に足を運ぶきっかけになってもらえれば」と話す。次は、通常運行の旅客列車に乗って、今回“止まらなかった駅”に立ち寄り、有名なトラピスト修道院あたりまで足を伸ばしてみるのも一興かもしれない。