Home > Highlighting JAPAN > Highlighting Japan September 2018 > 科学技術

Highlighting JAPAN

 

 

乗り物の定義を変える「ライドロイド」

乗り物として、パートナーとして、人に寄り添う「ライドロイド」という新しいロボットが誕生した。シンプルなボディには世界最高レベルの先端技術が多数搭載され、人との心のつながりも実現しようとしている。

自動運転技術の向上により、必ずしも人間が操作しなくても良くなったものの、乗り物は依然としてA地点からB地点まで人や荷物を運ぶ道具でしかない。乗り物の定義そのものを変えるような、イノベーティブな乗り物を作りたい。ロボット研究者として世界でも高名な千葉工業大学未来ロボット技術研究センター(fuRo)所長の古田貴之さんのそのような意欲から「CanguRo(カングーロ)」は作られた。

CanguRoは、「Ride(乗り物)」と「Roid(ロボット)」を合わせた「RidRoid(ライドロイド)」という新しいロボットだ。ハンドル部分が動物の耳のようにも見える「ロイドモード」では、人間に寄り添うようにゆっくりと進み、買い物時にはカートの役割をするなど生活をサポートする。その状態から前輪が前にせり出し、サドル部分が持ち上がると「ライドモード」に変形する。運転するというよりも、人とロボットが一体となって移動する感覚が味わえる。

「イメージしたのは、古来より人間のパートナーである馬との関係です。馬は乗り物でもありますが、相互の信頼関係という心のつながりがあります。CanguRoでも、人と乗り物の新しい関係の構築を目指しました」と、CangoRuに込めた想いを古田さんは語る。

一見シンプルに見えるボディには、fuRoが独自開発した最先端テクノロジーの数々が搭載されている。キーテクノロジーのひとつが、「インホイール駆動ユニット」である。普通のタイヤに見えるが、駆動用前輪の中に独自開発の薄いモーター、ギア、自動操縦システムが収まっている。

ライドモードでは、自分の身体機能を拡張した乗り物と感じられるよう工夫を凝らした。ハンドル操作の重みを制御する「バイラテラル・コントロール」、車輪荷重や遠心力などをセンシングする「アクティブリーン機能」により自然に車体を傾け目的の方向に曲がる。感覚としてはスキーの旋回に近い。また、座面やハンドルなど直接体が触れている部分は移動スピードに応じてCanguRoの鼓動が伝わるようになっている。

離れた場所から呼び出すこともできる。これは、リアルタイムで地図を自動生成すると同時に自分の位置を推定する能力を備えているからである。その能力を支えているのは、fuRoが数年前から開発を進めているscan SLAM技術である。今世界のテクノロジー企業でSLAM開発が進んでいるが、fuRoのSLAM技術は他社よりも処理能力が高く、その性能は世界最高レベルだとされている。だからこそ、行動を予測しにくい歩行者空間において、人や障害物を除けながら安全な自動操縦ができるのである。

CanguRoの特徴の一つである「人との関係性」構築という面では、AI(人工知能)がキーテクノロジーである。「場の状況を認識できなければ、パートナーとして人の役に立つような知的な行動はできないので、AIに空気を読ませる」と古田さんが話すように、ディープラーニングによるシーン認識でその場の状況を認識させる。例えば「重そうな物を持っている人」がいたら運搬を助け、「倒れている人」を見つけたら助けを呼びに行くといった行動が可能になる。

「イノベーティブな乗り物、ロボットを作って、文化に根付かせるまでが私の仕事。企業に技術移転して販売するのと並行して、多くの人にCanguRoを体験してもらう場を作ろうとしています。そして、CanguRoをきっかけに、移動弱者といわれる高齢者の生活やコミュニティが豊かになるような、プラスのスパイラルを作っていきたいのです」と語り、古田さんはその先の未来を見据えている。