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Highlighting JAPAN

 

日本映画を世界へ

ゴジラなど世界的人気を誇る映画で知られる東宝は、日本映画の世界進出に積極的に取り組んでいる。近年の日本映画・アニメの海外での評価や勢い、人気の理由などを探る。

「近年、日本映画とアニメは海外からの高い評価を得ています」と、『ゴジラ』シリーズの制作で有名な日本最大手の映画会社である東宝株式会社の映像本部国際部長、植田浩史さんは語る。「中でも、海外のマーケットで各国での配給上映権を積極的に買っていただけるのは、圧倒的にアニメです」。アニメ隆盛の時代となった最大の理由は、世界的に起きている映画製作の二極化傾向ではないかと言う。

米国資本のNetflixなどの動画配信サービスが大きく普及した結果、観客が実際に劇場に足を運んで見たい映画の種類が、話題性の高いハリウッドの超大作へと偏り、カンヌやベルリンなど国際映画祭の受賞作が大々的に世界的興行収入を上げるケースが少なくなっている。映画産業に関わり目の肥えた業界人が評価する作品と、娯楽として人々が見たがる作品との間に乖離が生まれている。「その結果、グローバルな娯楽追求と、ローカルな芸術・文化性の追求との二極化が起きていて、その二つを集約できるものがアニメとなりやすいのではないかと考えています」と植田さんは説明する。

また、今や中国が映画興行収入で米国に次ぐ世界第2位の市場となるなど、観客が多様化している。精神世界や空想の存在など、現実的にはあり得ない設定であってもどの国の人が見ても無理なく描くには、実写映画よりもアニメ表現の方が向いているとも言える。

日本の作品は大人の鑑賞にも耐えるクオリティの高さを有している。かつてアニメといえば子供向けのヒーローものが主流だったが、日本のアニメは学園生活や家族、大人同士の恋愛など、実写映画のような人間ドラマまでもアニメで表現し、アニメは子供のものという概念を壊すことに成功した。日本のアニメは、北米や欧州の20~30代の男性が多いコアなファンをまず獲得し、そこから拡大してヒットにつながるケースが多い。日本で一大ブームを起こした『君の名は。』やスタジオ・ジブリの作品は、海外でも初めから幅広い年齢層から大きな支持を獲得した。

世界的に社会の多様性が進む中、近年の世界的なヒット作を見ると、近年の原作やキャラクターやロゴなどの知的財産(IP)にも文化的・民族的な多様性がみられる。中東や南米、アジア、アフリカが舞台の作品も出てきている。ハリウッドなどの映画産業は今、これまで取り上げられていない新しい企画を次々に発掘して世界的にヒットを狙える映画を作ろうとしている。

既にギネスブックに載るほどの長いシリーズである日本の『ゴジラ』も同様に、ハリウッドでの映画化を足がかりに世界での知名度を上げた。植田さんは「日本のIPをもっと有力に育てていきたい」と意気込む。海外の日本映画ファンは、日本の文化に根ざした企画の独自性を高く評価しており、独自性こそが日本作品の強みだと言う。

だが、そのように日本らしい切り口や視点で作られた作品でありながら、普遍的で深遠なテーマを扱い、繊細な心理描写にも優れているため、海外の観客がそこに自分の人生を投影し、娯楽として楽しめるのが日本映画・アニメの醍醐味である。興行収入で世界第3位の映画市場である日本は、国内市場を飛び出し、独自の発想と企画力でこれからも世界を魅了するような作品を発信し続けていくだろう。