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Highlighting JAPAN

 

 

海外で評価される「禅」の思想

「禅」は欧米のビジネス、芸能、文化など各界の著名人に多大な影響を与えている。なぜ彼らは禅に惹かれるのか。

禅はインドの達磨大師から中国の臨済禅師を経て、鎌倉~室町時代に日本に伝えられた仏教の一派である。禅の流れをくむ宗派には臨済宗、曹洞宗、黄檗宗などがある。

「すべての人間は生まれた瞬間には何も持っていませんが、年齢を重ねるにつれて様々な知識や良識、道徳観、価値観などを身につけていきます。禅は、それらの中から不要なものをすべて捨て、自分本来の姿を追い求めて悟りを得ようとする修行です。例えば京都・龍安寺の石庭は禅の世界観を端的に表した場所といえます」と日本最大の禅寺、臨済宗妙心寺派の単伝寺住職の堀尾行覚さんは言う。

禅を象徴する言葉の一つに『自由自在』があると堀尾さんは説明する。「自由は、一般的にはフリーダム、解放などと解釈されますが、禅の世界では『自らに由る』、すなわち周囲との関係ではなく、あくまで自分自身の主体性が確立されていることを自由と考えます。この自由を獲得してこそ『自分が在る』となり『自由自在』と言えるのです」

「海外の多くの人に評価されている理由には、キリスト教徒、イスラム教徒といった宗教的背景を一切問わないこと、禅師、老師といった高僧でも、悟りを得ようとする修行中の身である点では初心者と同じで距離感が近いこと、経典を読んで勉強するよりも身体での実践を重視していることなどが挙げられると思います」

実践の中身が比較的分かりやすく、言語の壁が低いことも特筆すべき点だろう。例えば坐して身と息と心を調和させる『坐禅』や、禅宗の文献などに記述された禅語を写す『写禅語』は簡単ではないが、内容は明快である。また、掃除や洗濯、食事、さらにその準備や後片付けなど、人間が生きていくために必要な行為も禅の修行であるという考え方も、外国人にとっては新鮮で興味深いという。

「近年、国内外の禅寺に加えて、博物館や美術館、東京の六本木ヒルズなど様々な場所で禅をテーマにした催しを行う機会をいただいており、外国人だけでなく日本の若い年代にも禅に興味を持つ方が増えていると感じます。私たちは冠婚葬祭の時だけでなく、日常においても、多くの人に禅を発信していく必要を感じています。たらいに張った水に一本の箸で円を描いても最初はほとんど動きませんが、継続すればやがてたらいの水すべてが渦を巻く。今後、私が期待しているのは、次代を担う若い僧たちが箸になって水を動かすことです。彼らならではの新しい視点で禅を広めて欲しいです」と堀尾さんは言う。