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Highlighting JAPAN

人工知能導入で進化を続ける多言語音声翻訳技術

31言語間の通訳が瞬時にできる多言語音声翻訳アプリVoiceTra(ボイストラ)が開発された。人工知能を利用した速く正確な翻訳で、外国人旅行客との会話などへの貢献が大いに期待されている。

VoiceTraは、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)が開発した、31言語間の翻訳を瞬時にサポートする多言語音声翻訳アプリである。音声翻訳システムの開発は他国でも盛んで、有名なウェブサービスも存在するが、VoiceTraの大きなアドバンテージは、翻訳の過程に英語を介さない点である。日本語から直接30言語に翻訳するために内容がより正確であり、かつ日本における観光客のニーズを考慮して、代表的なヨーロッパ言語だけでなく、アジア言語に対応している点も強みである。「日本語とミャンマー語の音声相互翻訳があるのは、VoiceTraだけです」と先進的音声翻訳研究開発推進センター企画室長内元清貴さんは話す。

2020年オリンピック・パラリンピック開催を前に、日本では外国人旅行客が今後ますます増えると予想されている。訪日外国人が言葉で困らない社会を実現するため、2014年に総務省が「グローバルコミュニケーション計画」を発表した。以後オールジャパン体制で様々な民間企業が参加し、NICTの多言語音声翻訳技術の研究開発が加速、病院・商業施設・観光地等の様々なシーンにおける実証実験が進められてきた。

利用は無料であり、画面はシンプルで操作も簡単でありながら、様々なゆらぎ・癖のある話声を正確に捉えることができる。しかも、翻訳に要する時間はほんの数秒である。学習には人間の神経回路をモデル化したニューラルネットワーク(深層学習)の仕組みを導入しており、利用が増えるほど情報が集積し機械学習によって翻訳の精度も上がるという仕組みを取っている。これにより意訳に近い自然な翻訳を実現した。

現在では全国の消防救急、鉄道事業者、タクシー会社、病院などにVoiceTra技術をカスタマイズしたサービスが導入され、訪日外国人とのコミュニケーションに活用されている。スマホアプリもシリーズで300万近くダウンロードされている。これまでの開発には約30年が費やされ、当初は研究価値が理解されないなどの難所もあったが、「私たちには『未来の日本にはこの音声翻訳技術が必要』という信念がありました」と内元さんは開発の道のりを振り返る。NICTの音声認識技術は、国際的なコンペである「音声翻訳に関する国際ワークショップ(IWSLT)」で他国の優れた大学や著名な研究所が誇る技術を押さえ、3年連続の世界1位を獲得している。

VoiceTraは鉄道を始めとした交通機関や医療現場など、既に日本の様々な場面で活用されているが、民間企業でアプリを超えた使われ方も実現している。民間企業が開発した病院で医師や看護師が使うIDカード型デバイスは、ハンズフリー方式で、前方から検知した音声(患者の音声)を日本語に、上から検知した音声(医師または看護師の音声)を外国語に自動的に翻訳する。今後に向けて、同時通訳のように複数言語を訳し分ける技術を研究中である。「近い将来の研究のゴールは、文脈に沿って適切な翻訳のできる同時通訳です。そのデータベース向上のためにも、日本での観光の際はぜひとも多くの人にVoiceTraを利用していただきたいです」と内元さんは語る。

VoiceTraサポートページ http://voicetra.nict.go.jp/