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Highlighting JAPAN

地元住民が守り伝える、美しき日本の原風景

山の斜面を覆うように、幾重にも連なる棚田は、それを守り、後世に残していくための取組が続いている。

三重県熊野市紀和町の東部に位置する丸山地区の白倉山(標高736m)南西側斜面に、広大な棚田群「丸山千枚田」がある。高低差160mの谷合に広がる水田は、日本最大規模の1340枚。大小様々な水田が段々に連なる景観は先人たちの知恵と苦労が詰まった誇り高い風景であり、日本一とも言われ、1999年には日本の棚田百選にも選ばれた。

この棚田がいつ頃造成されたか正確なことは明らかになっていないが、1601年には、すでに2240枚の水田があったという記録が残っている。しかし、1970年頃から始まった稲作転換対策による杉の植林や、その後の過疎・高齢化に伴う耕作地放棄の増加によって、1992年には530枚まで減少した。

こうした事態に、自分たちの代でこの貴重な文化遺産を無くすわけにはいかないと、地元の住民たちが立ち上がった。「1993年、丸山地区全員で丸山千枚田保存会を結成し、全員の手作業で木の根を掘り、石垣を補修し、荒れた田を1枚1枚起こしていったそうです。1994年には全国初の丸山千枚田条例を制定するなど、住民と行政が協力し、ほぼ4年がかりで810枚、約2.4haの水田をよみがえらせました」と熊野市ふるさと振興公社の和平憲一さんは語る。

復元した千枚田を守り、後世に残し伝えていくため、1996年にはオーナー制度を導入した。年会費を払ってオーナーになると、昔ながらの手作業による田植えや稲刈りのほか、虫おくり(松明を灯して害虫を払い、その年の豊作を願う伝統的な農耕行事)などにも参加できる。「毎年100組を超える申し込みをいただいています。導入当初から20年以上、ずっと協力してくださっているオーナーさんもおられます。オーナーさん同士で横のつながりもできて、毎年予定を合わせて田植えに来ることを楽しみにしてくださっている方も多いようです。オーナーさんの中には外国の方もいらっしゃいます」と和平さんは話す。

近年では、相模女子大学の学生が地域協働活動の一環として熊野市を訪れ、地元住民から田植えや稲刈りなどの作業を教わりながら、農業の大切さや自然との関わりを学んでいる。そうした取組について、熊野市・地域振興課の吉田健二さんはこう語る。「学生さんたちが参加してくれることで作業もぐんとはかどりますし、その後の交流も住民たちの楽しみの一つです。最近は、作業の様子をSNSで発信してくれる学生さんも多く、丸山千枚田を広く知ってもらう良い機会になっていると思います」。

四季折々の美しい景観や復田のための取組がテレビや雑誌でも取り上げられ、観光客も増えているが、住民が心から望んでいるのは、丸山千枚田を守り、後世に残し伝えることである。「派手なイベントを行って一過性の話題を集めるのではなく、オーナーさんや学生さんたちのように、同じ想いを持って継続してつながっていける人を増やしたい、そういう気持ちでやってきています。農作業を伴う保存会も、経済的支援をいただく守る会も、年々メンバーが増え、その輪が全国に広がっていることが一番嬉しいです」と吉田さん。日本の原風景とも言える棚田を守る奮励と尽力は、これからもずっと続いていく。