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Highlighting JAPAN

カステラ:シンプルで繊細なスイーツ

今なおカステラと長崎は切っても切れない関係にあるが、このスポンジケーキは日本全国のあらゆる世代の人々に愛されるお菓子になっている。

熱湯が入った平鍋に2ダース分の卵白の入ったスチール製の容器を浮かべ、泡立て作業に当たる府中谷泰造さん。彼によれば、容器を熱湯に浸すことで気温が下がる涼しい時期でも泡立てやすくなるという。卵の白身と黄身を分けて泡立てる方法は「別立て法」と知られ、彼のカステラ作りでもとても重要な工程の一部であるが、彼自身も、別立て法の作業は簡単ではないと認めている。

「カステラ作りは、この泡立て作業にかかっています。泡立ては、気温、季節そして天候に大きく左右されます。私は45年間カステラを作っていますが、今でも美味しく仕上げられるか心配になります」と説明する府中谷さん(68歳)は、東京下町で創業100年以上のカステラ専門店「中屋洋菓子店」を営んでいる。

西欧の小麦粉とクリームがベースの装飾的なケーキなどと異なり、「和菓子」(参照)で知られる日本の最も代表的なお菓子は、寒天や餅米が原材料になっており、小豆から作られた甘いあんが併せてよく使われている。

日本のお菓子の中で、注目すべき例外的お菓子が、「Castella」という言葉の発音に名前が由来するカステラである。カステラは、素朴な見た目に勘違いされがちであるが、実はとても繊細で、完璧を極めるのが難しい。カステラの起源は日本では明確でないにも関わらず、日本で最も歴史の古いスポンジケーキとして知られている。

広く認められている一説によれば、カステラは長崎開港後、南蛮貿易時代の16世紀にポルトガル商人によって初めて日本に伝えられた。当時、九州の小さな漁村に過ぎなかった長崎は、今では40万都市である。しかし、カステラと言えば長崎が思い浮かぶように、両者は今でも切ってもきれない密接な関係にある。

言い伝えによると、当時カステラについて長崎の村人がそれは何かと尋ねた時、ポルトガル商人は「ボロ・デ・カスティーリャ」(「カスティーリャ王国のデザート」)または「パォン・デ・カスティーリャ」(「カスティーリャ王国のパン」)と答えたという。カステラとは、カスティーリャを指すポルトガル語で、カスティーリャは、イベリア半島にかつて存在した王国である。今日カスティーリャは、非公式ではあるが、大まかに言うとスペインのレオン、ラ・マンチャそしてマドリッドを含む一帯を指す。

長崎の創業400年のカステラ老舗店、福砂屋が著した『南蛮貿易とカステラ』によれば、 「ボロ」または「パォン」のルーツに関する一つの解釈は、固いパン、つまり、スペインで「ビスコチョ」として知られる「ビスケット」にある。ビスコチョは、約千年前、主にスペイン海軍用の必要最低限の保存食として作られたことがきっかけであるが、同書によれば、その後、今日私たちが見かけるカステラに近い様々なタイプのビスコチョが作られるようになっていった。

長崎カステラとビスコチョを結び付ける他の説明としては、カスティーリャの言葉で「二度焼き」という意味を持つビスコチョの言葉からも発見できる。

府中谷さんによれば、カステラでも二度焼きは必要である。最初に、カステラの上部と底部におなじみの焦げ茶色の焼き目を付け、次に、生地をふっくらと膨らませるという目的である。 生地となる材料は、比較的シンプルで、最初に卵白をフワフワになるまで十分泡立てる。そこに黄身を加え、さらに3種類の砂糖 – 粒が大きいザラメ糖、細かく粒状の白砂糖、そして、水飴– を追加し、最後に小麦粉を入れる。

次に、まず約200℃に温めたオーブンでこの生地を5分程度焼き、次に温度を下げて生地がふっくらと膨らむまで焼き上げ、出来上がったカステラは、一晩寝かせる。府中谷さんによると、わざわざ一晩成熟させるのは、冷ますだけでなく、カステラ独特の香りを引き出すためだ。

「オーブンから出したばかりの状態は、実はあまり美味しくありません。一晩寝かせることで、甘みが戻り、香りも深まります」と府中谷さんは使い古したオーブン用耐熱手袋をはめながら語り、オーブンをのぞき込む。オーブンの中には、オーブン用シートを敷いた大きなチェス盤ほどのサイズの木枠が入っており、カステラが焼き上がっている。

カステラ底部のサクサクとした食感とセンセーショナルなカラメル味は、府中谷さんによれば、素材に使用しているザラメ糖によるもので、ザラメ糖は深みのある甘さを引き出している。

「あらゆる年代層が楽しめる、シンプルでありながら繊細な味わい、それが、カステラの最大の魅力です」と中屋洋菓子店の客は、カステラの魅力について語る。

現在カステラは、日本だけでなく海外でも目にすることができる。実際、台湾やシンガポール、インドネシアなどのアジア諸国では、カステラ愛好者が増えている。ポルトガルにおいても、この20~30年間にカステラ店がオープンしている。数世紀前にポルトガル商人から伝わり、日本で発展したカステラが、世界で人気を博する日も近いかもしれない。