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Highlighting JAPAN

新たな魚食文化を切り拓く

近年、日本人の魚食離れが進む中、魚を食べる楽しさを広げ、売上を伸ばしている企業がある。

海に囲まれ四季を通じて多種多様な魚介類が獲れる日本では、古来より魚介類を生で食べるほか、保存食として干物や塩漬け、寿司の原型と言われるなれずしなど様々な工夫をしてきた。さらに新鮮な魚をすり身にして料理の具材にしたり、刺身、寿司、天ぷらなどの多様な魚料理を生み出したり、他にも魚を焼いたり煮たり蒸したりするなど食生活を豊かなものにしてきた。

第二次世界大戦後に、交通物流網の発達や家庭用冷蔵庫の普及によって、山間地域の人々も新鮮な魚介類を食べるようになると、魚介類の消費は増加し、水産庁の「水産白書」によれば、国民一人当たりの魚介類の年間消費量が2001年度には40.2kgに達した。(同年の国民一人当たりの肉類の年間消費量は27.8kgである。)しかし、これをピークに魚介類の消費量は徐々に減少し、2015年度には25.8kgまで低下した。この要因には、食品の多様化や国内漁獲量の減少、さらには高齢者人口や共働き家庭の増加により、調理に手間を要する魚料理が敬遠される傾向が強まったことなどが挙げられる。

こうした中、1949年に東京の荻窪で創業し、首都圏を中心に30店舗を展開する東信水産株式会社は、消費者に魚介類を身近に感じてもらえるよう様々な工夫を凝らし年間を通じて200種類以上の魚介類を販売、売上を増加させている。

「調理方法が分からない、調理する時間がないなどの理由で、家庭で魚介類を調理する回数が大幅に減っています。こうした消費者の声をニーズとして捉え、新しい商品やサービスの開発に取り組んでいます」と同社社長の織茂信尋さんは言う。

東信水産は、単に魚介類を販売するだけでなく、魚を食べる楽しみや魚を食べることによる生活の質の向上を消費者に知ってもらおうと積極的な提案をしている。その一つが、2014年に荻窪総本店の一角に開設した「Toshin Kitchen」である。通常、鮮魚店では店員が買い物客に調理方法まで説明することはない。しかし、Toshin Kitchenでは、クッキング・ヒーター、電子レンジ、調理台などのキッチン用品をそろえ、朝、昼、夕方の3回、料理専門家が魚介類を使った料理の実演を行っている。Toshin Kitchenに足を運ぶ客層は時間帯によって異なるので、日本料理だけではなく、イタリアンや中華料理での魚の調理法を紹介するなど、同じ調理法を繰り返さないようにしている。例えば、子連れの主婦の来店が多い午後は、安価でボリューム感のある料理、共働きや一人暮らしの会社員の来店が多い夕方以降は、短時間で作れる料理を紹介している。

「Toshin Kitchenで手軽な魚の調理方法を知ることで、お客様は家で魚料理をしてみようという気持ちになります。魚料理は面倒という先入観を解消する提案を続けてきたことで、当社の来店客数、頻度も増加しました」と織茂さんは言う。

Toshin Kitchenを展開すると同時に、同社は調理時間がかからない、魚介類の調理食品の開発にも力を入れ、パック入りの寿司や刺身、電子レンジで温めるだけで食べられる商品を全店でそろえている。食卓が華やぐと来店者から好評だったため、食品トレーの色も従来の黒や白から、黄色、青、ピンクなどカラフルなものに変更した。

東信水産では女性や外国人を積極的に採用しながら、人材育成にも力を入れている。2018年1月には、10名のベトナム人技能実習生を初めて受け入れた。実習生は包丁を使った魚のさばき方、調理、販売などの技術を学び、同社の店舗で働いている。今後も、毎年約10名、ベトナムから実習生を受け入れる予定である。

「魚に関する日本の伝統的な文化や技術をしっかりと伝えたいと思っています。帰国後、実習生には日本で習得した魚の知識を活かしてベトナムの食生活を豊かにして欲しいと願っています」と織茂さんは言う。

魚介類を美味しく食べる食文化は日本だけのものではない。日本の食文化が引き継がれ、そして世界の魚食文化をより豊かにするお手伝いができるかもしれない、そんな願いがここにはある。