Home > Highlighting JAPAN > Highlighting Japan February 2018 > 地方創生

Highlighting JAPAN

星夜

「日本一の星空」を観光客に体験してもらうことで、長野県の小さな村は大きな成功を収めている。

本州の内陸部にあり、2000~3000m級の山々が連なる長野県には、人気の観光地が数多い。その中の一つ、長野県の南部に位置する人口6600人余の阿智村の昼神温泉は『天空の楽園~日本一の星空ナイトツアー』に都会からのツアー客を呼び集めている。

ここ10年ほど、阿智村は主要産業の一つとなっていた温泉客の減少が続き、大きな危機に直面していた。そんな中、2011年より阿智村では星空ツアーを開催し始めた。

2016年5月に設立された株式会社阿智昼神観光局の代表取締役社長の白澤裕次さんは「昼神温泉は1973年に発見された比較的新しい温泉地で、泉質や宿泊施設の良さから人気を集めてきました。とはいえ、長野県内はもとより、昼神温泉より規模が大きく、歴史の長い温泉地が国内にはいくつもありますから、温泉だけをセールスポイントにしていても、減少する観光客の回復が見込めないのは明らかでした」と言う。

打開策として、白澤さんが中心となり考え出した企画が『天空の楽園~日本一の星空ナイトツアー』だった。阿智村は、2006年に環境省から「夜空の明るさが星の観測に適している場所」という指標で最上位の認定を受けていたのだ。

2011年、同村のスキー場「ヘブンスそのはら」で試験的にスタートさせた星空ツアーは、単に星空の見やすい場所に人々を案内するだけのシンプルなものだったにもかかわらず、年間約6500人の参加者を記録した。白澤さんたちはこれに確かな手応えを感じ、ミュージシャンによる演奏、語り部による星空解説、さらに星空の見えにくい満月の時期には天体望遠鏡による月面観測会など、様々なプログラムを企画しツアーの魅力を高めた。結果、2017年の参加者は6年前の20倍以上となる、約15万人に達した。

「私自身、阿智村の星空のすばらしさは知っていましたが、それがビジネスに結びつくとは思いもしませんでした。ところが、日本の都会で暮らす人々のほとんどは、生まれてから一度も天の川を見たことがないと言うのです。そういう人々にとって阿智村の美しい星空は何物にも代えがたい感動となり得たのです」

それまでも阿智村では観光関連の組織がそれぞれに観光振興に取り組んできたが、いずれも好成績を上げることはなかった。村全体の活性化を目指し、そうした組織の統合の必要もあり、阿智昼神観光局が設立された。もちろん、この星空ツアーの運営を通じて生まれた組織でもある。ツアーによって、阿智村を訪れる観光客数が増加しただけでなく、来村者の大半が村内の旅館やホテルに宿泊し、夜間には周辺などの飲食店を利用するため、予想以上の経済効果をもたらしている。

「旅の魅力は何よりも感動でしょう。阿智村の星空のように、潜在的な観光資源を生かすには地域が一体化したスピード感あふれる取り組みも欠かせません。そうした役割を担い、この村の観光地としての魅力を次の世代へ引き継いでいくのが我々の仕事です」と白澤さんは語る。

阿智昼神観光局では星空ツアーの他にも、雲海の発生しやすい季節には夜明け前からスキー場のリフトを運行したり展望テラスをオープンしたりするなど、阿智村の魅力の演出に取り組むなど、斬新なアイデアで地域の魅力を高めている。

鉄道最寄り駅から昼神温泉までは車で30分ほどである。鉄道経由で来村する観光客のために直行バス路線の整備を進め、訪日観光客の利便性改善にも取り組んでいる。

白澤さんが思い描いているのは、多種多様な観光資源を持つ近隣の市町村との緊密な連携である。それによって、長野県南部、通称「南信州」と呼ばれる広域エリアの魅力を高められると考えるためである。阿智昼神観光局は、星空ツアーの成功のエッセンスを共有しながら、南信州を訪れる全ての観光客に楽しんでもらえるようなツアーやイベント開発に取り掛かろうとしている。